2023年6月26日月曜日

銘柄を明かさない理由R008 暴落のベラドンナ(中編)

第008話 暴落のベラドンナ(中編)

「空売り」は、証券会社から株式を借りて売り建てる取引になる。
決済期日までに買い戻した株式を返却することで得られる利益を狙うことになる。
現物取引では、株価の下落局面では、株価が下げ止まるのを待つことしかできない。
だが、信用取引の「空売り」を使えば、下落局面でも利益を得ることが可能となる。

信用取引には、取引できる銘柄の選定や返済期限・金利などのルールがある。
信用取引には、「制度信用取引」と、「一般信用取引」がある。
「制度信用取引」は証券取引所のルールで、「一般信用取引」は証券会社のルールになる。
このうち信用取引として広く利用されているのは、「制度信用取引」になる。

「制度信用取引」の対象銘柄には、一定の基準(流通株式数、株主数など)がある。
証券取引所は、これらの基準から、信用銘柄や貸借銘柄を選定している。
貸借銘柄は、必要な株数を確保できない場合に、証券金融会社が株式を融通する銘柄。
「空売り」をすることができるのは「貸借銘柄」のみになる。

「制度信用取引」を利用した「空売り」の利便性は高いが、固有のリスクが存在する。
リスクは、株価の急上昇(青天井)による損失や、貸株料(金利)や逆日歩の発生。
「空売り」には、「買いは家まで売りは命まで」という相場格言がある。
過去に株価の急上昇で命を絶った投資家は、国内外を問わず存在する。

2008年9月17日、東京都中央区日本橋の証券会社。
早朝出勤し、各国の市況を確認したクジョウは「空売り」で挑むことに決めた。
クジョウは自社資産運用部署の責任者を拝命してから、過去の相場を研究していた。
確認した全てのデータが、今回の相場が暴落相場になることを示唆していた。

クジョウは、秘書室の姫宮に全員を招集するよう要請した。
姫宮から出勤途中のメンバーに、昨日と同じ招集命令が発せられた。
「アルカディア」に、メンバーが続々と集まってきた。
東京証券取引所の取引開始前、集まったメンバーにクジョウがいった。

「過去のデータから、今回の相場は暴落相場となる可能性が高い。
今回の相場に、アルカディアは空売りで挑むことにした。
自分たちが社内、業界、いや世界で一番、偉いと思え、必ず目標を達成しろ」
クジョウがメンバーに役割を告げると、それぞれが配置についた。

同日の日経平均株価は反発したが、ニューヨーク市場は再び大幅安を記録した。
翌18日の日経平均株価は反落し、終値は1万1,489円と安値を更新した。
その後も、世界的な株価の乱高下と経済の落ち込みで投資家心理は冷え込んだ。
日経平均株価は、リーマン・ブラザーズ破綻から約1カ月半で4割下落した。

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