2023年6月20日火曜日

銘柄を明かさない理由R002 女王の生誕(中編)

第002話 女王の生誕(中編)

2007年9月、東京都中央区日本橋の証券会社。
証券会社の相談コーナーには、若い女性社員と上品な身なりの高齢の夫婦がいた。
「退職金があるんだが、遊ばせておくのも、もったいないだろ。
株も安くなってるみたいだし、いい商品があればと思ってね」、高齢男性がいう。

「たくさん増えなくていいんですよ、孫へのこづかい程度で」、高齢女性がいう。
「知り合いからは、投資信託がいいって、いわれたんだが」、高齢男性がいう。
「失礼ですが、今まで資産運用の経験はおありでしょうか」、女性社員がいう。
「ないよ、あったら、ここには来ないだろ」、高齢男性がいう。

「奥様は資産運用の経験はおありでしょうか」、女性社員がいう。
「資産運用なんて、したことがありませんよ」、高齢女性がいう。
「現金はご自宅に保管されているのでしょうか」、女性社員がいう。
「家には置かずに、銀行に預けていますよ」、高齢女性がいう。

「銀行に預けるのも、資産運用ですよ」、女性社員がいう。
「あら、そうなの、知らなかったわ」、高齢女性がいう。
クジョウとかいうこの女、客をからかっているのか。
若い女性社員のネームプレートを見て、名前を確認した高齢男性は思った。

「貯金しかしてこなかった私たちには、どんな商品がいいんだね」、高齢男性がいう。
「大事なのは、商品ではなく、どのように運用するかですよ」、クジョウがいう。
「とっとと商品の説明をしてもらえないかな」、苛立った高齢男性がいう。
「かしこまりました、では、商品の説明をさせていただきます」、クジョウがいう。 

小一時間後、説明を聞き終えた高齢男性は、クジョウのことを信頼していた。
クジョウのわかりやすい説明で、商品のメリットとデメリットが理解できた。
また、商品をどのように運用すればよいかも理解できた。
妻の横顔にも、クジョウを信頼している様子が、はっきりと見てとれた。

「クジョウ君、ちょっと」、クジョウの背後に来たスーツ姿の男性社員がいう。
「少々、お待ちください」、クジョウは夫婦にいうと席を立った。
老夫婦には聞こえない場所まで移動すると、男性社員がクジョウにいった。
「社長がお呼びだ、あとは私が対応するので、社長室へ行ってくれるかな」

「承知しました」、クジョウはいうと、社長室へ向かった。
社長室へ向かうクジョウを見送った男性社員は夫婦の元へ向かった。
「申し訳ございません、お客様、クジョウに急ぎの電話があったようです。
ここからは私が担当させていただきます」、男性社員がにこやかな笑顔でいった。

0 件のコメント:

コメントを投稿