2023年6月25日日曜日

銘柄を明かさない理由R007 暴落のベラドンナ(前編)

第007話 暴落のベラドンナ(前編)

2007年から米国の住宅市場は大幅に悪化していた。
サブプライムローンなどの延滞率は更に上昇し、住宅差押え件数も増加を続けた。
ファニー・メイやフレディ・マックなどの連邦住宅抵当公庫は、危機的状態となっていた。
政府支援機関は、買取上限額の引上げや、投資上限額の撤廃など様々な手を尽くしていた。

2008年9月8日、財務省が追加で約3兆ドルをつぎ込む救済政策が決定された。
この政策は「Too big to fail(大きすぎて潰せない)」の最初の事例となった。
大手証券会社リーマン・ブラザーズも例外ではなく、多大な損失を抱えていた。
2008年9月15日、同社は連邦倒産法第11章の適用を連邦裁判所に申請するに至った。

同社は、破綻の前日まで、複数の金融機関と売却の交渉を行っていた。
売却の交渉は、財務省や連邦準備制度理事会(FRB)の仲介によるものだった。
交渉には、HSBCホールディングスや韓国産業銀行などが参加していた。
日本のメガバンク数行も参加していたが、同社の買収を見送ったといわれている。

最終的に残ったのは、バンク・オブ・アメリカ、メリルリンチ、バークレイズであった。
だが、連邦政府が公的資金の注入を拒否していたことから、交渉は不調に終わった。
損失に苦しむメリルリンチはバンク・オブ・アメリカへの買収打診を決定していた。
バークレイズも巨額の損失を抱え、同社を買収する余力は、どこにも存在していなかった。

同社の破綻を受けて、月曜日だったニューヨーク証券取引所ではNYダウが急落した。
NYダウは、前週末比504ドル安の1万917ドルで取引を終えた。
同日の欧州株式相場も急落し、英FTSE100指数は約2カ月ぶりの安値となった。
独DAX指数は、年初来安値を更新した。

2008年9月16日、東京都中央区日本橋の証券会社。
早朝出勤していた「アルカディア」責任者のクジョウは、各国の市況を確認した。
クジョウはトレードプランを策定、秘書室の姫宮に全員を招集するよう要請した。
姫宮から出勤途中のメンバーに、「アルカディア」初となる招集命令が発せられた。

東京証券取引所の取引開始前、集まったメンバーにトレードプランの説明が行われた。
含み益になっている保有株は、含み益がなくなるまでに売る。
また現物株を売ると同時に、「アルカディア」初となる空売りを行うというものだった。
説明が終わると、メンバーに役割が告げられ、それぞれが配置についた。

取引開始時間になると、東京証券取引所には売り注文が殺到した。
みずほフィナンシャルグループなどの金融株が、軒並みストップ安となった。
東証1部の8割超の銘柄が値下がり、日経平均株価は前週末比605円安となった。
騰落率-4.95%の1万1,609円は、約3年2カ月ぶりの安値水準だった。

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