2023年6月23日金曜日

銘柄を明かさない理由R005 その名はアルカディア(中編)

第005話 その名はアルカディア(中編)

2007年10月、東京都中央区日本橋の証券会社。
社内では、自社資産運用部署の立ち上げに向けた準備が着々と進められていた。
会議室では、秘書室の姫宮が、十数名の社員に対して、選考試験を行っていた。
「これから適性を見るための仮想トレードを行ってもらいます、では始めてください」

倉庫として使われていた部屋では、トレードルームに改装するための工事が行われていた。
工事責任者との打ち合わせを終えたクジョウに声がかけられた。
「情報システムの楢崎だが、秘書室のお姫様はいる?」
クジョウが振り向くと、楢崎がにやけた顔で立っていた。

「お姫様とは姫宮のことか」、クジョウがいう。
「そそ、ここのシステムのことで、聞きたいことがあってね」、楢崎がいう。
「姫宮は選考試験をしている、聞きたいことは何だ」、クジョウがいう。
「そりゃ残念、口の利き方がなってない、あんたにわかるかな?」、楢崎がいう。

「システムのことは私が姫宮に依頼した、責任者のクジョウだ」、クジョウがいう。
「あんたが責任者なのか、俺の息子くらいの年じゃねえか」、楢崎がいう。
「聞きたいことは何だ」、クジョウがいう。
「個人投資家のリアルタイムのデータが、なぜ必要なのかと思ってな」、楢崎がいう。

「トレードの参考にするためだ」、クジョウがいう。
「参考って、素人のトレードを参考にすんのか」、楢崎が驚いていう。
「何か問題があるのか」、クジョウが楢崎の目を見据えていう。
「い、いや、ないと思うが・・・」、楢崎がそれ以上、何かを聞くことはなかった。

翌日の夕方、トレードルームにする工事が行われている部屋。
工事関係者が帰った部屋で、クジョウは速水からもらった資料を読んでいた。
資料には、速水が今まで行ってきた運用について記されていた。
速水の運用は、国内株によるもので、相場の状況に合わせて、買いと売りをしていた。

「お疲れ様です。仮想トレードの成績表ができたのでお持ちしました」
開けっ放しにしていたドアから入ってきた姫宮が、クジョウに成績表を手渡した。
「成績上位は女性ばかりでした」、礼をいい受け取ったクジョウに姫宮がいう。
クジョウは、英語表記された苗字につけてある赤い丸が気になった。

「赤い丸は何の印だ」、クジョウがいう。
「偶然ですが、7位までの赤丸をタテ読みすると、ARKADIAになります」、姫宮がいう。
「その言葉には、どういう意味があるんだ」、クジョウがいう。
「ARKADIA(アルカディア)は、古代ギリシャの理想郷です」、姫宮がいった。

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