2021年1月31日日曜日

【エッセイ】新築住宅を購入する前に知っておきたいこと

自身は長年、住宅業界で働いてきた。
最先端の知見を有する人から、現場で作業する職人まで、多くの人と仕事をしてきた。
比較的、合格者が少ないとされている一級建築士の有資格者でもある。
新築住宅を購入する前に知っておきたいことについて書いてみるw

1.新築住宅で価格に見合う品質は期待できないと認識すること。
なぜなら、新築住宅の現場で実際に作業する職人は、末端の下請けだからである。
住宅業界では、受注した会社が下請けに丸投げ、下請けは職人に丸投げする。
丸投げするたびに、マージンを取られるため、職人にはぎりぎりの金しか入らないw

2.地盤調査結果を鵜呑みにしないこと。
なぜなら、ビルやマンションの地盤調査と異なり、住宅の地盤調査は簡易調査である。
住宅の地盤調査では、敷地の数か所を調べるだけである。
そのようなピンポイント調査で、地盤の状態がわかるはずがないw

3.多くの住宅では手抜き工事が横行していると認識すること。
1でも書いたように、作業する職人はぎりぎりの金額しかもらっていない。
全ての職人がそうではないが、少しでも儲けようとする職人は平気で手を抜く。
規定の本数の釘を打たない、指定された品質より低い材料を使うなどであるw

1は、業界の古くからの慣習なので、残念ながらいかんともしがたい。
どうしても、価格に見合う品質にしたければ、自分で全職人に発注するしかない。
だが、発注するには、作業内容と適正価格を知っておくことが必要になる。
したがって、業界関係者以外の人が、発注することは、実質、不可能であるw

2は、敷地の前歴と過去の地形を確認すれば、ある程度、地盤状態を推測できる。
以前、建物が建っていた土地であれば、地盤補強が不要な地盤であることが多い。
田畑を埋め立てた造成地であれば、地盤補強が高確率で必要となる。
過去の地形が「扇状地」や「谷底平野」等の土地も、地盤補強が高確率で必要となるw

3は、建て主自身が、建築中に現場へ顔を出すことで、ある程度の抑止力になる。
1でも書いたように、受注会社、下請け、職人は、利益優先である。
建て主自身が現場へ顔を出すことで、彼らは手を抜きにくくなる。
もちろん、発注している立場なので、現場へ行く際、差し入れ等は不要であるw

【エッセイ】評価額の増減が激しかった月に思うこと

今月は、保有株の評価額の増減が激しかった。
月中に昨年末より約380万円ほど増加、月末では約80万円の増加だった。
もし、会社員を辞めていなかったら、空しさの中で仕事をしていただろう。
なぜなら、1日で賞与以上の額が増減する日が多かったからであるw

運用額が多い人はご存じだろうが、運用額が多いと評価額の増減も大きくなる。
何もしなくても、給与や賞与以上に増減するようになる。
すると、労働の対価として、給与や賞与を得ていることが空しくなってくる。
辞める1年ほど前からは、配当金で生活費を賄えるようになり、より空しさが大きくなったw

会社員は、給与や賞与を得るために、時間を拘束される。
仕事で成果を出しても、全てが自分に還元されるわけでもない。
住宅ローンを返済中で金と気持ちに余裕がない上司に、忖度しなくてはならない。
金融リテラシーが高いとはいえない人たちと、同内容の仕事をしなくてはならないw

会社員を辞めてから、空しさを感じることはなくなった。
自身には株式投資の収入のほかに、大家としての家賃収入がある。
所得にすると、月額数万円ほどだが、大家業に関しては空しさを感じることはない。
なぜなら、大家業で時間を拘束されることは、ほとんどないからであるw

2021年1月30日土曜日

【エッセイ】投機で勝てる人、投資で勝てる人

「投機」とは、「機会に乗じて、短期間で利益(利ざや)を得ようとする行為」。
わかりやすくいえば、「安いときに買い、高いときに売る」取引である。
「投機」で必要なのは、株価推移や出来高など、テクニカル分析だけである。
自身からいわせると、「投機」はギャンブルと何ら変わらないw

「投資」とは、「長期的な視野で資金をビジネス(事業)に投じる行為」。
企業が発行する「株式」に資金を投じ、企業価値の増加を期待する行為である。
企業価値の増加とは、利益や配当の増加、株価の値上がりなどである。
「投資」ではテクニカル分析に加え、企業価値等のファンダメンタルズ分析が必要になるw

たまに、「投資では早めの損切りが必要」という意見を目にすることがある。
投資先の企業が倒産しない限り、投資で損切りはあり得ない。
正しくは、「投資は、投資先の企業が倒産しない限り、損切りしてはならない」
「投機は、短期間で利益を得なくてはならないので、早めの損切りが必要」であるw

あと、「投機」は資金と強運があれば、勝てる。
しかしながら、「投資」は資金があっても、賢明でないと勝てない。
このことは、バリュー投資の父であるベンジャミン・グレアムの著書のタイトルでわかる。
著書のタイトルは「The Intelligent investor(賢明なる投資家)」であるw

【エッセイ】尊重欲求レベルが低い人の困った行動

自身が会社員だった頃、取引先からいわれたことがある。
「先日、定年退職された元取締役が来られましたよ、ヒマだといっていました」。
おそらく、ヒマを持て余しての行動だったのだろう。
応対しても何のメリットもない取引先からすると、困った行動であるw

アメリカの心理学者、アブラハム・マズローは、欲求を5段階の階層で理論化している。
5段階の中に「社会的欲求と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging)」がある。
自分が社会に必要とされている、果たせる社会的役割を求める欲求である。
孤独・追放・拒否・無縁状態になった場合、痛恨をひどく感じるようになるらしいw

5段階の中には「承認(尊重)の欲求 (Esteem)」もある。
自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求。
低いレベルの尊重欲求は、他者からの尊敬、地位、名声などによって満たされる。
マズローは、低いレベルの尊重欲求にとどまり続けることは危険だとしているw

高いレベルの尊重欲求は、自己尊重感、技術や能力などを得ることで満たされる。
このレベルにおいては、他人からの評価よりも、自分自身の評価が重視される。
元取締役は、仕事ができる人で、それなりに人望もあった。
だが、尊重欲求のレベルは高くなかったようであるw

2021年1月29日金曜日

銘柄を明かさない理由R409 別れの時(後編)

第409話 別れの時(後編)

東京駅へ歩いていく勝利と三助の後ろ姿を、道に立つ男が見ていた。
見ている男は、坊主頭で巨体の着物姿の本間大蔵だった。
楽しそうに歩いていく2人を見る大蔵は、どことなく寂しげだった。
2人が角を曲がって見えなくなると、肩を落とした大蔵は来た方向へ帰ろうとした。

帰ろうと振り返った大蔵の目の前に、黒のスーツ姿で黒の眼帯をした犬神がいた。
「い、犬神・・・」、犬神を見た大蔵がいう。
「2人へ餞別を渡さなかったのか」、犬神が大蔵が持っている菓子折りを見ていう。
「ち、ち、ちがう、これはワシが食べるんじゃ」、大蔵がいう。

「それにしても、気持ちのいい男たちだったな」、犬神がいう。
「ああ、それについては異論はない」、大蔵がいう。
「あの2人のように、俺たちも相場を盛り上げないとな」、犬神が笑みを浮かべていう。
「おうよ、いつでもかかってこい、犬神」、大蔵が嬉しそうにいった。

東京駅へ向かう勝利と三助が角を曲がると、目の前に1人の女性がいた。
女性は茶のコートを着た事務員の山崎で、茶色のトランクを携えていた。
「山崎やないか、体調わるいんやないんか」、勝利がいう。
「荷造りの時間が欲しかったので、ずる休みしました」、山崎がいう。

「荷造りって、引っ越しでもするんか」、勝利がいう。
「お2人がいなくなる淀三証券からの引っ越しです。
山崎は、お2人についていくことにしました」、山崎がいう。
「ええええ~っ」、勝利と三助が同時に声をあげた。

「や、山崎、ワテらについてきても、何もええことあらへん」、勝利がいう。
「そ、そうや、犬神はんが面倒をみてくれる、考え直すんや」、三助がいう。
「山崎は、心底、好きになった男には、何があっても、ついていくと決めてました。
誰に何といわれようが、絶対についていきます」、山崎がいう。

好きになった男って、エロ坊主の本間大蔵から助けたったワテのことやな。
しゃあないな、そこまでいうんなら、つれていったろか、勝利は思った。
「三助さん、山崎もつれていってください」、山崎が三助に抱きついていった。
ワテとちゃうんか~い、勝利は思わず声に出しそうになった。

電器屋の店先のラジオから、神楽坂はん子の「こんな私じゃなかったに」が流れてきた。
ひろい世界にただひとり~なぜにあなたがこう可愛い~♪
君の寝顔に頬あてて~女ごころの忍び泣き~こんな私じゃなかったに~♪
この敗北感・・・仕手戦の敗北感より大きいかもしれへんな、勝利は思った。
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「第30章 伝説の仕手戦」をお読みいただき、ありがとうございました。
神楽坂はん子の「こんな私じゃなかったに」を視聴したい方は、下から視聴できますw

銘柄を明かさない理由R408 別れの時(中編)

第408話 別れの時(中編)

「白井は指示に対して、いつも、なぜですかと聞いてきよる、なぜなぜ小僧やった。
ホンマ、うっとうしかったわ」、白井は申し訳なさそうにうつむいた。
「けど、尾上セメントを買おうとしたとき、白井のなぜで財務内容を確認できた。
結果、買いを見送ったことで、倒産する尾上セメントを買わんで済んだ」、勝利がいった。

「板垣は白井と正反対やったな、頭より体が先に動く、な~んも考えへん男や。
ホンマ、扱いづらかったわ」、板垣は申し訳なさそうにうつむいた。
「けど、カスミ電機を買うか迷うとったとき、板垣はいうてくれた。
すぐに決めてくださいと、おかげで買いを即決、儲けることができた」、勝利がいった。

淀屋らしいな、さりげなく彼らの長所を、俺に伝えるとは、犬神は思った。
「白井、板垣、今のお前らは、兜証券では間違いなく下っ端や。
最初は、お茶くみや電話番をやらされるかもしれへん。
けど、お前らには誰にも負けへん、ええとこがある、頑張るんやで」、勝利がいった。

こらえきれなくなった三助が泣きながらいった。
「白井・・・、板垣・・・、頑張るんやで」
「ほ、本当にありがとうございました。淀三証券でのことは一生、忘れません」
白井が大粒の涙を流しながらいった。

「し、白井みたいに、め、女々しく泣いてたまるか・・・。
社長・・・、三助さん・・・、本当にお世話になりました。
この板垣、兜証券の下っ端として、一から頑張ります」
板垣が泣くのを必死でこらえながらいった。

淀屋、お前の望みは叶えてやる、こいつらの面倒は俺がみてやる、犬神は思った。
「さてと、ほな、行こか、三助」、勝利がいう。
「は、はい、九代目」、三助が涙を拭っていう。
「淀屋、これからどうするんだ」、犬神が聞く。

「どうしたらええかは、お月様が教えてくれるやろ、なあ三助」、勝利がいう。
「そうでんな、お月様の教えに従いましょう」、三助がいう。
「ほな、犬神はん、白井と板垣、あと山崎のこと、よろしく頼んます」
旅行カバンを持った勝利と風呂敷を背負った三助は、頭を下げると、淀三証券を出た。

「九代目、どこへ向かうんでっか」、風呂敷を背負った三助が勝利に聞く。
「そうやな、とりあえず、一旦、大阪へ帰ろか。
大阪に帰ってから、お月様に行先を聞こか」、旅行カバンを持った勝利がいう。
「わかりました、九代目」、2人は東京駅へ向かって歩き始めた。

【エッセイ】信用取引をしない理由

東京証券取引所作成の「信用取引制度の概要」がある。
同資料によると、信用取引の主な利用主体は個人投資家で93%。
さらに、個人投資家の売買は、現金取引40%に対し、信用取引60%らしい。
自身は信用取引をしないが、しない理由について書いてみるw

信用取引のメリットは、下記だといわれている。
1.手元資金以上の取引を行うことが可能→レバレッジ効果
2.手持ちの有価証券を保証金として利用可能→代用有価証券
3.「売り」から入ることが可能→保有株式の株価下落リスクのヘッジw

自身が信用取引をしないのは、上記がメリットではなく、デメリットだからである。
1.手元資金以上の取引を行うことが可能→借入による金利、貸株料等のコスト増
2.手持ちの有価証券を保証金として利用可能→損失を確定させられるリスク発生
3.「売り」から入ることが可能→売りコスト>買いコストのため、±0にはならないw

下図は、2020年1月から現在までの評価損益率の推移である。
評価損益率は、信用取引を行っている投資家の含み損益を、%で表している。
2020年1月から、一度もプラスになっていないことが、おわかりいただけるだろう。
信用取引で儲けることができたとしても、運がよかっただけにすぎないのであるw

2021年1月28日木曜日

銘柄を明かさない理由R407 別れの時(前編)

自身はオリジナル小説「銘柄を明かさない理由R」を執筆している。
「銘柄を明かさない理由R」は、5人の無敗の相場師と取り巻く人々の物語である。
現在、新シリーズの「出羽の天狗(でわのてんぐ)編」を執筆中である。
「出羽の天狗編」では、東の本間と西の淀屋の戦いが物語の軸となる。

本間大蔵と淀屋勝利の戦いを書いた"第30章 伝説の仕手戦"。
いよいよ、第30章の終わりが近づきつつある。
書き終えていたが、登場人物たちから依頼があった訂正に追われている。
では、「銘柄を明かさない理由R 出羽の天狗編」をお届けするw
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第407話 別れの時(前編)

1953年(昭和28年)2月12日。
兜証券の社長室には、黒い眼帯をした社長の犬神、淀三証券の勝利と三助がいた。
ソファに坐る3人の前に、お茶を出した秘書が退室した。
「悔いはないのか、返済期限を延ばしてもいいんだぞ」、犬神がいう。

「男と男の約束を守れんかったんや。
淀三証券は兜証券のもんや、悔いはあらへん」、勝利がいう。
「東証(東京証券取引所)の臨時立会停止がなければ、間違いなく勝っていた。
今回の敗因は淀屋じゃなく、外部要因の不可抗力だろう」、犬神がいう。

「確かに、犬神はんのいう通りかもしれへん。
けど、負けたことに変わりはあらへん、淀三証券をよろしく頼んます」、勝利がいう。
犬神は淀屋の才能をかっており、何とか残って欲しいと思っていた。
「淀屋、お前の望みは何だ、俺が叶えられることか」、犬神が勝利に聞いた。

「望みでっか」、勝利はいうと考え始めた。
望みなんて考えたことなかったな・・・そうや、1つだけあったわ。
勝利は愛嬌のある笑みを浮かべると、犬神にいった。
「犬神はん、明日の朝、淀三証券に来ていただけまっか」

翌朝、兜町の淀三証券。
1階の洋間には、三助と白井と板垣の3人が、元気なく椅子に座っていた。
玄関の引き戸が開く音がすると、犬神を連れたグレーのスーツ姿の勝利が現れた。
「おはよう、どないしたんや、元気ないな」、勝利がいう。

三助、白井、板垣の3人は、うつむいたままだった。
「山崎はどうした、なんで、おらへんねん」、勝利が聞く。
「山崎は体調不良で休みです」、ロイド眼鏡をかけた白井がいう。
「そうか、ほな、始めようか」、勝利がいった。

勝利は、白井、板垣を見渡せる位置に立った。
勝利の後ろには、三助と黒のスーツ姿の犬神が立っていた。
「え~とやな、ワテの失態で、淀三証券を兜証券に譲渡することになった。
今までいろいろとありがとうな」、勝利がいった。

「社長、辞めないでください」、白井がロイド眼鏡を外して、涙を拭った。
「これから面白くなると思ってたのに・・・」、板垣は必死で泣くのをこらえていた。
「最後やから、いうといたるけど、お前ら2人はホンマに足手まといやったわ」
白井と板垣に、勝利が声のトーンを落としていった。

【コラム】今の株高は不思議なことじゃない

景気がよくないのに、株高なのは不思議だという意見を見ることがある。
自身からすると、株高になって当たり前で、当面、この状況は続くだろうとみている。
相場には4つのサイクルがあるといわれている。
「金融相場」、「業績相場」、「逆金融相場」、「逆業績相場」であるw

昨年、新型ウイルスの影響により、企業業績が悪化するという懸念から、株価は暴落した。
すなわち、業績悪化への懸念から、株が売られる「逆業績相場」だった。
その後、各国の金融緩和や低金利政策によって、膨大な金が市場にあふれることになった。
あふれた膨大な金で運用益が得られる株が買われる「金融相場」となった。

今年に入ってからも、金融緩和や低金利政策による「金融相場」は続いている。
だが、これからは「金融相場」に「業績相場」が重なる可能性が高い。
昨年から、多くの企業で、早期退職などによる経費削減が行われている。
経費削減により企業業績が向上、さらに株が買われる「業績相場」になるとみているw

相場が天井になりやすいのは、「業績相場」から「逆金融相場」の間といわれている。
「逆金融相場」は、金融引き締めや政策金利の引き上げにより、株が売られる相場である。
各国が金融緩和や低金利政策を続けると表明していることから、天井はまだ先となる。
なお、上記はあくまでも個人の意見なので、投資判断は自己責任でお願いするw

2021年1月27日水曜日

銘柄を明かさない理由R406 伝説の仕手戦(後編)

第406話 伝説の仕手戦(後編)

1953年(昭和28年)の大発会。
東京証券取引所の立会場では、熾烈な仕手戦が繰り広げられていた。
「三助、今の情勢はどうや」、勝利が、双眼鏡で黒板を見ている三助の横に来て聞く。
「売り方と買い方、五分五分です」、三助が双眼鏡から目を離さずいう。

「年明け早々、えらい相場やな」、汗を拭きながら勝利がいう。
「兜証券の社員はんたちが、頑張ってくれてます。
九代目、このままいけば、今日は勝てるかもしれまへん」、三助がいう。
「ほな、もう一踏ん張りしてくるわ」、勝利がポストへ駆け出した。

昨年から、東京証券取引所の立会場では、かってない規模の仕手戦が行われていた。
買い方は、淀三証券、犬神が率いる兜証券などだった。
売り方は、本間大蔵が率いる本間商会、大手証券会社の山井証券、栄証券などがいた。
3銘柄を対象とした大規模な仕手戦に、東京証券取引所は熱気に包まれていた。

1953年(昭和28年)1月28日。
売り買いの均衡が崩れ、売り方による怒涛の売りが始まった。
「なんや、この売りは」、勝利と三助は下落する株価を見ていた。
勝利と三助が見ている中、3銘柄の取引終値は大幅に下がった。

翌朝、東京証券取引所の立会場に、黒の眼帯をした犬神が現れた。
「"鬼神"が出てきた」、「旭日硝子みたいにやられるぞ」、売り方の間に不安が広がった。
「成り行きで全部買え」、犬神は自社の社員に激を飛ばした。
"鬼神"こと犬神が現れたことにより、3銘柄の株価は騰がり始めた。

「買って買って買いまくれ」、犬神は自社の社員に激を飛ばし続けた。
犬神に恐れをなした、山井証券と栄証券は、早々に手仕舞いすることを決めた。
「根性なしが」、本間大蔵は手仕舞いする山井証券と栄証券を見ていった。
犬神のくそがあ、本間大蔵が率いる本間商会は、売りを続けた。

「九代目、犬神はんの陣頭指揮でとんでもないことになってます」、三助がいう。
「さすが、犬神はんや、三助、淀三も全力で買いや」、勝利がいう。
「承知しました、淀三も全力で買い向かいます」
三助は両手を上げ、白井と板垣に買いの合図を送った。

"鬼神"こと犬神が率いる兜証券と淀三証券による、怒涛の買いが始まった。
株価急騰と出来高激増のため、東京証券取引所は、その日の立会時間を短縮した。
同年2月9日、過熱相場を危惧した東京証券取引所は、臨時立会の停止を決定した。
同年2月11日、臨時立会の停止により、3銘柄の株価は急落した。

銘柄を明かさない理由R405 伝説の仕手戦(中編)

第405話 伝説の仕手戦(中編)

勝利と三助が犬神と会った日の夜。
日本橋の花街にある料亭の一室では、宴が行われていた。
「酒田照る照る、堂島曇る、江戸の蔵米(くらまい)雨が降る~」
芸妓(げいぎ)が他の芸妓が奏でる楽器と歌声に合わせ、踊っていた。

芸妓たちの舞踊が終わると、拍手が起こった。
「ほれ、祝儀じゃ」、坊主頭で巨体の着物姿の本間大蔵が、芸妓たちに祝儀を渡した。
祝儀を受け取った芸妓たちは、大蔵に礼をいい、退室した。
「ほれ、飲め」、大蔵が向かいに座る証券金融会社の柴崎に、徳利を持った手を伸ばした。

「いただきます」、柴崎が両手でお猪口を差し出す。
大蔵が酒を注ぎ終わると、柴崎はこぼれそうになったお猪口に慌てて口をつけた。
2人の間にある座敷机には、豪勢な料理が並んでいた。
「ところで、淀三証券から貸借取引の申し入れはあったか」、大蔵が聞く。

「今のところ、淀三証券から貸借取引の申し入れはございません。
仮にあったところで、過去の実績がないので、少額の貸付になるでしょう」
刺身を箸でつまみながら、柴崎がいった。
「ははは、そりゃそうじゃな」、大蔵が上機嫌で自分のお猪口を口にした。

「貸借取引」は、証券金融会社が証券会社に対して必要な資金や株券を貸し付ける取引。
証券会社の資金や株式が不足すると、不足分を調達するために「貸借取引」が行われる。
「貸借取引」は、内閣総理大臣の免許を受けた証券金融会社にのみ認められている。
現在の東京証券取引所は、日本証券金融株式会社を、証券金融会社として指定している。

小一時間ほどすると、柴崎がいった。
「本日はお招きいただき、ありがとうございました、そろそろ失礼いたします。
資金がご入用の際は、いつでも、この柴崎に仰ってください」
本間様のためなら、迅速にご用意させていただきます」

「よろしゅう頼むわ」、大蔵がいい、柴崎は退室した。
おそらく、淀三証券には、3銘柄を買い続けるだけの金はない。
仮に、証券金融会社に「貸借取引」を申し込んでも、借りれる額は少ない。
にわか天狗になっとる淀三証券には、"出羽の天狗"である本間大蔵が天罰をくらわす。

天罰くらうてから後悔する顔が目に浮かぶわい、大蔵は手酌で酒をあおった。
したたかに酔った大蔵は腰を上げると、隣の和室に続く襖を開けた。
隣の和室には布団が敷かれており、布団の上には背を向けた芸妓が座っていた。
前祝いと洒落こもうか、大蔵は好色な笑みを浮かべた。

【コラム】負のスパイラルを断ち切るための最適解

いい歳なのに、いつまでたっても引退しないアスリートを見るたびに思う。
チームや若手のことを考えるのであれば、引退しろよと。
大幅に給与を減らされた再雇用で、定年後も働く会社員も同じである。
彼らによって、負のスパイラルが生まれているw

彼らが引退しない理由は、様々だろう。
「世間から忘れられたくない」
「住宅ローンもあるし、子どもの学費が必要」
「貯蓄と年金だけでは生活できない」などなどw

だが、彼らが引退しないので、所属団体、会社、業界の雇用条件がわるくなる。
すると、現役世代の収入が低下することになる。
収入が低下すれば、晩婚化が進み、住宅の購入や子育ての時期が遅くなる。
現役世代は、いつまでたっても引退できないことになるw

このような負のスパイラルが、延々と続くことになる。
長い人生の中で、第一線で活躍できる期間は限られている。
活躍できる期間に、引退を見据えた準備をしておくべきである。
負のスパイラルを断ち切るための最適解は、もちろん、株式投資であるw

2021年1月26日火曜日

銘柄を明かさない理由R404 伝説の仕手戦(前編)

第404話 伝説の仕手戦(前編)

「久しぶりに会ったが、相変わらず面白い奴だな」、笑みを浮かべた犬神がいう。
「そんな、おもろいこというたつもりはないんやけど。
久しぶりって、前にどっかで会うてましたっけ」、勝利が犬神をまじまじと見ながら聞く。
「かっての教官を忘れたのか」、犬神がいう。

「教官・・・、ぐ、軍事教練の教官やった犬神少佐でっか」、勝利が驚いていう。
「あれから、いろいろあってな、今はここの社長だよ。
淀屋の噂は聞いていたよ、久々に会えて嬉しいよ」、犬神がいう。
「ワテも嬉しいです、眼帯してはるんで、わかりまへんでした」、勝利がいう。

軍事教練とは、大日本帝国の学校における教練をいう。
1925年から、陸軍現役将校が対象の学校に配属され行われた。
勝利が通っていた大学でも、軍事教練が行われており、犬神少佐が教官だった。
その日の午前、勝利たちは初めての軍事教練を受けることになっていた。

校庭に整列する学生たちの前に、険しい顔つきをした犬神少佐が現れた。
「教官の犬神だ、軍事教練を始める前に、きさまらに確認することがある。
この中に食堂のふかし芋をつまみ食いした奴がいる、身に覚えのある奴は名乗り出ろ」
誰も名乗り出ないので、犬神少佐は学生たちの顔を見て回った。

「きさまか、つまみ食いしたのは」、立ち止まった犬神少佐が勝利に聞く。
「自分はしてないであります」、勝利が直立不動のままいう。
「じゃあ、口の端についてる芋は何だ、教練が終わるまで校庭を走っていろ」
「了解であります」、勝利は校庭を走り始めた。

勝利が犬神との出会いを回想していると、犬神がいった。
「ここだけの話、淀屋には教えといてやる、この眼帯ははったりだ。
眼帯していれば、戦闘で目を負傷した勇敢な人という印象を与えることができる」
犬神が右手を使って眼帯を上にあげると、無傷の右目があった。

「ところで、信用取引には、株券もしくは現金の担保が必要になる。
担保は用意できるのか」、眼帯を下げた犬神が勝利に聞く。
「株券も金も足りへんので、淀三証券を担保にしたいんや。
期限までに返済できへんかったら、淀三証券は兜証券のもんや」、勝利がいう。

犬神は笑みを浮かべ、勝利にいった。
「やはり、淀屋は面白い、仕手戦のために会社を担保にするとはな。
証券会社の担保とは前代未聞だが、ある意味、最強の担保かもしれんな。
信用取引の件は承知した、うちの社員に仕手戦を教えてやってくれ」

【コラム】働かざる者も食べられる

誰もが一度は聞いたことがある「働かざる者食うべからず」。
働こうとしない怠惰な人間は食べることを許されない。
食べるためには真面目に働かなければならないということ。
自身も子どもの頃、親からよく聞かされた言葉であるw

親たちが現役だった時代は、会社員は終身雇用が当たり前だった。
勤続年数が長くなればなるほど、定期昇給で給与も増えた。
銀行に預けるだけで、利息で物価の上昇をカバーできた。
定年まで勤め上げれば、退職金で住宅ローンを完済することもできたw

親たちが現役だった時代は、「選ばなければ仕事はある」時代だった。
仕事を選ばなければ、働いて食べていくことができた。
野村総合研究所と英国オックスフォード大学が行った、驚くべき共同研究結果がある。
日本の労働人口の約49%が就いている職業において、機械に代替可能との試算結果であるw

これから先、現在ある職業が半減し、労働人口の半数が仕事ができなくなる。
「選ばなければ仕事はある」時代から、「選ばなくても仕事がない」時代になる。
労働者の半分は、資本家になるために、ある認識を持つことが必要になる。
持たなければならない認識は、「働かざる者も食べられる」であるw

2021年1月25日月曜日

銘柄を明かさない理由R403 鬼神と呼ばれた男(後編)

自身はオリジナル小説「銘柄を明かさない理由R」を執筆している。
「銘柄を明かさない理由R」は、5人の無敗の相場師と取り巻く人々の物語である。
現在、新シリーズの「出羽の天狗(でわのてんぐ)編」を執筆中である。
「出羽の天狗編」では、東の本間と西の淀屋の戦いが物語の軸となる。

「出羽の天狗編」には、信用取引による仕手戦の場面がある。
賢明なる読者の方は大丈夫だと思うが、信用取引に手を出してはいけない。
なぜなら、信用取引は証券会社が儲かる仕組みになっているからだ。
では、「銘柄を明かさない理由R 出羽の天狗編」をお届けするw
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第403話 鬼神と呼ばれた男(後編)

兜証券の社長室。
黒い眼帯をした社長の犬神、淀三証券の勝利と三助がいた。
ソファに坐る3人の前に、お茶を出した秘書が退室した。
"鬼神(おにがみ)"と呼ばれとる犬神さんを見るのは、久しぶりやな、三助は思った。

1949年(昭和24年)5月16日。
東京証券取引所で、売買立会が開始された。
だが、GHQにより、戦前戦中の「仕切り売買」や「先物取引」は禁じられていた。
そんな中、人気を集めたのが、将来、発行される新株の引受権である"ヘタ株"だった。

発行される際の価格が未定の"ヘタ株"は、「先物取引」と同じ売買が可能だった。
1950年2月、旭日硝子株式会社の増資新株、"ヘタ株"の売買が可能になった。
旭日硝子の理論株価は220円だったが、初日の取引終値は410円の大幅高となった。
当時、老舗大手証券会社の副社長だった犬神は、旭日硝子の"ヘタ株"を買い進めた。

日々、高値を更新する旭日硝子の"ヘタ株"に、全国の証券会社が売り方に回った。
同年4月、売り買いの均衡が崩れ、売り方による怒涛の売りが始まった。
前日終値の417円から67円暴落の350円となり、その日の取引は終わった。
誰もが売り方の勝利で、買い方の負けだと思った。

翌朝、東京証券取引所の立会場に、右目に黒の眼帯をした犬神が現れた。
「成り行きで全部買え」、犬神は自社の社員に激を飛ばした。
副社長である犬神の陣頭指揮に、売り方は、何か材料があるのでは、と不安になった。
やがて、買い方が優勢となり、この日の終値は101円高の451円となった。

あまりの過熱ぶりに、翌日から旭日硝子の"ヘタ株"取引には、取引制限が設けられた。
翌日も、東京証券取引所の立会場に現れた犬神は、自社の社員に激を飛ばした。
"鬼神"のような犬神の陣頭指揮で、終値は531円のストップ高となり、買い方が勝利した。
旭日硝子の仕手戦に勝利したのち、犬神は大手証券会社を退社、兜証券を創業した。

「話を聞こうか」、犬神がいう。
「"鬼神"と呼ばれとる犬神はんに頼みがある。
兜証券の信用取引をさせてくれへんか」、勝利がいう。
「なぜ、兜証券の信用取引がしたいんだ」、犬神が聞く。

「本間商会の本間大蔵とやりあうことになったんやけど、金が足りまへんねん。
信用取引なら、現物以上の金を動かせるやろ」、勝利がいう。
証券会社でありながら、仕手戦のために、他社の信用取引をしようというのか。
前代未聞の勝利の話に、"鬼神"こと犬神は驚かされた。

【コラム】勝率5割超えの個人投資家たち

日本証券業協会の「個人投資家の証券投資に関する意識調査について」がある。
上記調査によると、2019年に売買損益がプラスだった個人投資家は34.6%。
同調査では、年収や保有株の評価額などのグループに分けた分析を行っている。
グループの中で一つだけ、勝率5割超えのグループがあったw

勝率5割を超えていたのは、保有株の評価額が3000万円以上のグループである。
同グループで、売買損益がプラスだった人が占める割合は51.4%。
下図は、左が全体平均で、右が保有株の評価額が3000万円以上のグループである。
同グループの勝率が5割超えであることが、おわかりいただけるだろうw

どちらにも、2019年に売買を行わなかった人がいる。
同グループで、売買を行わなかった人の割合は17.9%。
売買を行った82.1%に、売買損益がプラスだった人が占める割合は62.6%。
売買した3人に2人は、売買損益がプラスだったことになるw

評価額(投資額)が多いほど、勝率が高くなるのは、複数の原因があると考えられる。
投資額が多くなることで、リターンも比例して多くなること。
投資時期を分散することで、平均取得単価を下げられること。
同グループの39%は100万円以上の配当を得ているが、これら配当の再投資などであるw

2021年1月24日日曜日

【コラム】保有資産3000万円未満世帯は半数ほどしかない

野村総合研究所の「日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模」がある。
2019年の調査によると、純金融資産保有額が3000万円未満の世帯は、4215.7万世帯。
全世帯が5402.3世帯なので、全世帯に占める3000万円未満の割合は78%。
5世帯中4世帯は、純金融資産保有額が3000万円未満ということになるw

ところが、同調査は純金融資産をベースにしている。
純金融資産は、預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など。
さらに、純金融資産の合計額から、住宅ローンなどの負債を差し引いている。
住宅ローンを差し引いているにも関わらず、不動産を資産として計上していないw

不動産は現金化するのに時間がかかることが原因らしいが、おかしな話である。
日本証券業協会が、保有資産に不動産も含めた調査を行っている。
「個人投資家の証券投資に関する意識調査について」である。
2020年に行われた同調査によると、保有資産額3000万円未満の世帯の割合は44.5%w

下図は、左が野村総研の調査結果、右が日本証券業協会の調査結果である。
不動産を保有資産に含むか含まないかで、大きく割合が異なることがわかる。
現金化に時間がかかるかもしれないが、不動産もれっきとした資産である。
調査をするのであれば、実情に即した調査を行って欲しいものであるw

銘柄を明かさない理由R402 鬼神と呼ばれた男(中編)

第402話 鬼神と呼ばれた男(中編)

淀三証券の徒歩圏に、兜(かぶと)証券があった。
兜証券は、外壁に赤煉瓦が用いられた2階建ての建物だった。
翌日の朝、兜証券の玄関前には、グレーのスーツ姿の勝利と着物姿の三助がいた。
「ほな、行くで」、勝利は三助にいうと、玄関扉を開けた。

中には木製カウンターがあり、カウンターの奥には数名の社員がいた。
「いらっしゃいませ」、入口に近い木製カウンター奥の女性社員がいう。
三助を連れた勝利は、女性社員に向かった。
「あ、あの、どのようなご用件で」、女性社員が聞く。

「淀三証券の淀屋勝利や、社長に話がある、取り次いでもらえるか」、勝利がいう。
「お約束はおありでしょうか」、女性社員が聞く。
「約束はあらへん、淀三証券の話を聞く気があるのか、聞いてくれるか」、勝利がいう。
「少々、お待ちください」、女性社員が席を立ち、奥にいる男性社員に相談した。

相談された男性社員が席を立ち、勝利たちに向かって歩いてきた。
「お客様、せっかくですが、お約束がないと、お取次ぎできないことになっております。
申し訳ないですが、お約束していただいてから、お越しいただけますでしょうか」
真面目そうな年配の男性社員が、手もみしながらいう。

「あんたが社長か」、勝利が手もみする男性社員にいう。
「いいえ、私はこの部署の責任者でございます」、手もみする男性社員がいう。
「ほな、社長に聞いてくれや」、勝利がいう。
「ですから、お約束がないと、お取次ぎはできません」、手もみする男性社員がいう。

「社長に、淀三証券の話を聞く気があるのか、聞いてくれるか」、勝利がいう。
「で、ですから、お約束がないと、お取次ぎはできません」
男性社員が手もみをしながら、強張った顔でいう。
「社長に、淀三証券の話を聞く気があるのか、聞いてくれるか」、勝利がいう。

「で、で、ですから、お、お約束がないと、お、お、お取次ぎはできません」
手もみをやめた男性社員が、ヒステリックな口調でいう。
延々と2人のやりとりが続く中、奥にある階段から、黒のスーツ姿の男が降りてきた。
降りてきた男は、髪をオールバックにしており、右目に黒い眼帯をしていた。

社員たちが席を立ち、黒い眼帯の男に向かい、直立不動の姿勢になった。
静まり返る事務所の中、黒い眼帯の男が、勝利に向かって歩いてきた。
黒い眼帯の男は歩みをとめると、勝利にいった。
「社長の犬神(いぬがみ)だ、上で話を聞こうか」

2021年1月23日土曜日

銘柄を明かさない理由R401 鬼神と呼ばれた男(前編)

第401話 鬼神と呼ばれた男(前編)

「仕手戦」とは、仕手と呼ばれる投機家同士が、売り方と買い方に分かれた争いである。
投機的な売買で利益を得ようとする売り方と買い方による相場の状況を表す。
買い方は、安値の株を大量に買い続けて、株価を急激につり上げる。
売り方は、信用取引を利用し、割高と思われる株を大量に売ることで株価を叩き落とす。

信用取引を利用する売り方は、期限までに買い戻さねばならないルールがある。
売り方の買い戻しに対し、買い方はさらに買い上がることで、売り方を締め付ける。
売り方は、逆日歩や追証などの負担から、さらなる買戻しを余儀なくされる。
株価は急騰、他の買いを呼び込むことから、熾烈な激戦となることが多い。

三助が、初めて撤収の合図を出した日の夜。
淀三証券には、帰宅した事務員の山崎以外の4人がいた。
三助が、勝利、白井、板垣の3人に、撤収の合図を出した理由を説明していた。
「出来高の急増に伴う株価の急騰が、三助が撤収を合図した理由や」

「急騰しても、配当以上に上がれば売れば、よいのでは」、ロイド眼鏡の白井がいう。
「急騰すれば、そのぶん繰り返し売買できるのでは」、オールバックの板垣がいう。
「確かに、白井と板垣のいう通りや、けど、今回はそうもいかん。
例えば、3銘柄の1つ、白井担当やった海運株、取引開始値は50円やった。

ところが取引終値は36円高の86円」、三助がメモを見ながらいう。
「それが何か問題があるんですか」、板垣が聞く。
「海運株の年間配当は2円、取引開始値なら4分(4%)の利回りや。
ところが取引終値にすると、2分ほどの利回りや」、三助がいう。

「利回りが低くなることに、何か問題があるんですか」、白井が聞く。
「しかも、取引が終わる前、海運株は3円以上の値幅で売り買いされてたんや。
そんな激しい値動きの中で、配当以上の利益を出す売り買いは不可能や」
三助がいい、白井と板垣は沈黙した。

「ほな、どないしたらええんや、三助」、黙っていた勝利が聞く。
「ひたすら買い続け、天井での売り抜けしかありまへん」、三助がいう。
「ほな、それでいこうや」、勝利がいう。
「九代目、今いうた方法は、今の淀三にはできまへん」、三助がいう。

「なんで、できへんねん」、勝利が三助に聞く。
「今の淀三には、3銘柄を買い続ける金がありまへん」、三助が悲痛な声でいう。
しばらくの間、考えていた勝利が、何か思いついたのか、愛嬌のある笑顔でいった。
「三助、明日、ワテにつきあえ、白井と板垣は取引所で3銘柄の監視を頼むわ」

【投資手法】株式投資で勝つために必要な考え方

プロスペクトとは英語のProspectのことであり、期待や予想、見込みなどのニュアンスを持つ。プロスペクト理論はリスクを伴う状況下での判断分析として、米カーネマン氏らが1979年に公表した論文のタイトル名。
プロスペクト理論により、従来の投資効用理論では説明のつかない投資家の判断行動が現実に即した形で解明された。例えば、投資家は収益よりも損失の方に敏感に反応し、収益が出ている場合は損失回避的な利益確定に走りやすい。一方、損失が出ている場合はそれを取り戻そうとしてより大きなリスクを取るような投資判断を行いやすいとされる。
プロスペクト理論は行動ファイナンスや行動経済学と呼ばれる心理学の要素を応用した新たな経済学の分野を切り開いたとして、同氏は2002年のノーベル経済学賞を受賞している。
(野村證券ホームページより)

プロスペクト理論の元となった実験には、以下の2つの質問が用いられた。
質問1:以下の二つから選択しなさい。
 A:100万円が無条件で手に入る。
 B:コイン投げで表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。
質問2:あなたは200万円の負債を抱えています。以下の二つから選択しなさい。
 A:無条件で負債が100万円が減額される。
 B:コイン投げで表が出たら全額免除されるが、裏が出たら負債額は変わらない。

質問1では、堅実性の高い「A」を選ぶ人の方が圧倒的に多いとされている。
質問1で「A」を選んだほぼ全ての人が、質問2では「B」を選ぶことが実証されている。
利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先する。
ところが、損失に対しては、損失そのものを回避しようとする傾向があるらしいw

株式投資で勝つためには、多くの人と逆の行動をとることが必要になる。
したがって、質問1は、多くのリターンが得られる可能性がある「B」である。
質問2は、確実に負債(含み損)が減る「A」である。
仮に、質問1で「A」を選ぶことがあっても、質問2で「B」を選ぶことはないのであるw

2021年1月22日金曜日

【エッセイ】会社員を経験してよかったこと

自身の父親は、小さな会社を経営していた。
職場は、労働環境がよくないとされる3K(きつい、きたない、危険)だった。
学生時代、何度かアルバイトで手伝い思った、働くなら会社員になろうと。
大学卒業後、会社員として働いてきたが、よかったことについて書いてみるw

先ずは、多くの人と関わりがもてることである。
多くの人と関わりがもてることで、社会人の常識、考え方などを学ぶことができる。
会社員でなければ、職場の人間関係が狭いことが多い。
すると、世間の非常識が常識になったり、考え方などが偏ることがあるw

次に、銀行など金融機関の信用度が高いことである。
住宅ローンなどを借りる際にも、会社員であれば審査が通りやすい。
会社員でなければ、安定した収入が得られるかという審査項目が追加される。
場合によっては、審査が通らないこともあるらしいw

これらのメリットがあるにも関わらず、自身は昨年、会社員を辞めた。
辞めた理由は、これらのメリットを必要としなくなったからである。
社会人の常識やマナーは習得済、銀行には株主として金を貸している。
あと、会社勤めで得る収入も、労働の対価であり、効率がよくないからであるw

銘柄を明かさない理由R400 挑戦状(後編)

第400話 挑戦状(後編)

兜町の淀三証券、本間大蔵が挑戦状を届けに来た日の夜。
1階の洋間では、三助が、勝利から手渡された本間大蔵からの挑戦状を読んでいた。
挑戦状には、商社、海運、鉄鋼の3銘柄が書かれていた。
3銘柄の売買で、本間大蔵を上回る利益を上げてみろ、という内容だった。

この3つの銘柄は、比較的、出来高が少ない株や、勝負するにはもってこいの株や。
けど、銘柄を3つにしてくれたんは、よかった。
淀三には、九代目、白井、板垣の3人がおるから、取りこぼすことはあらへん。
三助は、3つの銘柄の買値と売値を計算すべく、算盤を取り出した。

「三助、そろそろ寝えよ」、眠そうな勝利がいう。
「今夜は遅くなるかもしれまへん、九代目は先に休んでください」、三助がいう。
「あんまり、根詰めんなよ、三助」、あくびをした勝利は、2階の自室へ向かった。
三助は、現在の株価を確認すると、買値と売値を計算すべく、算盤を弾き出した。

翌日の東京証券取引所。
立会場の端に立った三助は双眼鏡で、両側の黒板を交互に見ていた。
本間大蔵の3つの銘柄の1つの株価が書かれると、三助は両手を上げ、合図を送った。
グレーのスーツ姿の勝利が、ポストへ脱兎の如く駆け出した。

再び、三助は双眼鏡で、両側の黒板を交互に見た。
黒板には、本間大蔵の3つの銘柄の2つ目の株価が書かれた。
白井、行くんや、三助は両手を上げ、合図を送った。
丸レンズのロイド眼鏡をかけた白井が、ポストへ勢いよく駆け出した。

再び、三助は双眼鏡で、両側の黒板を交互に見た。
黒板には、本間大蔵の3つの銘柄の3つ目の株価が書かれた。
板垣、行くんや、三助は両手を上げ、合図を送った。
髪をオールバックにした板垣が、ポストへ勢いよく駆け出した。

小1時間が過ぎる頃、三助はあることに気づいた、
3銘柄は出来高が急増、出来高の急増に伴い、株価は急騰しつつあった。
なんや、これ、こんなん、今まで見たことあらへん。
ま、まさか、3銘柄同時に仕掛けてきとるんか。

売りに対して、買い向かうのが、淀三や。
そやけど、このままやったら、資金が尽きて、買い向かえんようになる。
しばらくの間、三助は今後の展開を考えていた。
残念やけど、今日はここまでや、三助は両手を上げ、撤収の合図をした。

2021年1月21日木曜日

銘柄を明かさない理由R399 挑戦状(中編)

第399話 挑戦状(中編)

「しゃ、しゃ、社長はいません」、山崎が目に涙を浮かべ、震える声でいった。
「そうか」、坊主頭で巨体の着物姿の男が、山崎に向かって、一歩踏み出した。
お、お願い、誰か助けて、山崎が思ったとき、玄関の外から聞きなれた社長の声がした。
「約束の時間より早いやろが、エロ坊主」

坊主頭で巨体の着物姿の男の後ろに、グレーのスーツ姿の淀屋勝利がいた。
淀三証券が出陣する前から、東京証券取引所には、坊主頭で巨体の着物姿の男がいた。
坊主頭で巨体の着物姿の男は、東北出身の本間大蔵(ほんまたいぞう)だった。
無類の女好きで、株取引で勝ち続けている大蔵は、淀三証券を敵視していた。

昨日、大蔵に話があるといわれた勝利は、淀三証券で会う約束をしていた。
「約束の時間まで10分以上ある、ウチの事務員に我慢できへんかったんか」
背後を振り返った大蔵に、勝利がいう。
大蔵の顔が、怒りでみるみる真っ赤になった。

「誰がエロ坊主や、お前みたいな関西の田舎者にいわれる筋合いはないわ」
真っ赤な顔になった大蔵が、勝利にいった。
「ほう、関西のワテが田舎者やったら、東北のエロ坊主はド田舎もんやな」
勝利が涼しい顔で、大蔵にいった。

「時間には早いけど、中で話を聞いたろか、エロ坊主の本間大蔵」
あまりの怒りで言葉が出ない大蔵に、勝利が続けていった。
「ふ、ふざけるな、ここまで愚弄されて、話し合いもないわ。
関西の田舎者への用件は、この書面の通りじゃ」

大蔵は懐から書面を取り出すと、勝利に投げつけた。
大蔵が投げた書面は、勝利には届かず、地面に落ちた。
「ちゃんと届かさんかい」、勝利は地面に落ちた書面を拾った。
書面を広げ、一読した勝利は、笑みを浮かべた。

「東北のエロ坊主から、淀三証券への挑戦状、しかと受け取った。
せいぜい、頑張るんやで、エロ坊主」、勝利が愛嬌のある笑顔でいった。
「きさま、覚えとけよ」、怒りで顔を真っ赤にした大蔵がいう。
「用が済んだら、とっとと帰れや、エロ坊主」、勝利が大蔵にいう。

「帰ったらあ、絶対に叩き潰したるからな」
大蔵は、勝利に捨て台詞を残すと、淀三証券を後にした。
「社長、ありがとうございます」、山崎が勝利に駆け寄り、背後から抱きついていった。
あ、あかん、頼むから離れてくれ、ワテもエロになってまうやろ、勝利は思った。

【エッセイ】会社員を辞めて手に入れたプライスレスなもの

昨年、自身は会社員を辞めて、個人事業主(個人投資家)になった。
会社員を辞めて、給与収入がなくなった。
だが、運用利回りが低い厚生年金保険料を納める必要がなくなった。
会社員を辞めて手に入れたものについて書いてみるw

手に入れたのは、当然ながら、時間である。
仮に、有休含む年間休日が145日とすると、年間勤務日は365日-145日=220日。
通勤時間を含む勤務時間を10時間とすると、220日×10時間=2,200時間。
一日あたりに換算すると、2,200時間÷365日=約6時間を手に入れたw

一日あたり約6時間だが、今までは他人(会社)のために使っていた時間。
他人のために使っていた時間が、自分のために使える時間になった。
「時は金なり(Time is money)」ということわざがある。
時間はお金と同じように非常に貴重なので、有意義に使いなさいという意味w

人生において、時間は限られており、非常に貴重である。
非常に貴重であるがゆえ、時間を金で買うことはできない。
したがって、自身が手に入れた一日あたり約6時間には、値段のつけようがない。
まさしく、金では買えないプライスレス(priceless)なのであるw

2021年1月20日水曜日

銘柄を明かさない理由R398 挑戦状(前編)

第398話 挑戦状(前編)

1949年(昭和24年)5月16日。
東京証券取引所で、売買立会が開始された。
当初の上場銘柄数は495社696種で、すべて戦前に取引していた銘柄だった。
大阪証券取引所も売買立会を開始、年末には397社478種が同取引所に上場した。

だが、GHQにより、戦前戦中の「仕切り売買」や「先物取引」は禁じられていた。
関係者からは、日に日に、株式の流動性向上を求める声が大きくなった。
打開策として議論されたのが「先物取引の復活」と「アメリカ式マージン取引」だった。
議論の結果、1951年にアメリカ式マージン取引がモデルの「信用取引制度」が開始された。

「信用取引制度」は、現金や株式を担保に、金を借りて行う取引である。
「信用取引制度」では、空売りして買い戻す、「売り」ができるようになった。
投機的な「売り」ができるようになり、証券取引所の参加者は増えた。
連日、買い方と売り方による売買が繰り広げられ、証券取引所は熱気に包まれた。

1952年の夏、兜町の淀三証券。
昼休みの淀三証券には、昼食のざる蕎麦を食べ終えた事務員の山崎和枝がいた。
ふぅ~暑っ、山崎はブラウスの襟元を開くと、うちわで風を送った。
うちわで風を送りながら、山崎は足元のバッグから一冊の雑誌を取り出した。

取り出した雑誌は、先日、創刊された芸能雑誌「明星」だった。
表紙には、人気女優の津島恵子がほほ笑んでいた。
山崎はうちわを動かしながら、「明星」のページをめくった。
華やかな芸能界のことを伝える「明星」を、20代の山崎は夢中になり読み始めた。

突然、山崎は背中に寒気を感じた。
何、今の寒気、山崎が窓の外を見ると、坊主頭で巨体の着物姿の男がいた。
坊主頭で巨体の着物姿の男は、両目を大きく見開いて、山崎を見ていた。
怖っ、坊主頭の男から目を背けると、山崎は両手で身体を抱き、小刻みに震え始めた。

山崎が震えていると、玄関の引き戸が開く音がした。
山崎が玄関を見ると、坊主頭で巨体の着物姿の男が、山崎を見ていた。
ひっ、目が合った山崎は、その場を動くことができなかった。
「社長はおいでかな」、坊主頭で巨体の着物姿の男が、山崎にいう。

「しゃ、しゃ、社長はいません」、山崎が目に涙を浮かべ、震える声でいった。
「そうか」、坊主頭で巨体の着物姿の男が、山崎に向かって、一歩踏み出した。
お、お願い、誰か助けて、山崎が思ったとき、玄関の外から聞きなれた社長の声がした。
「約束の時間より早いやろが、エロ坊主」

【エッセイ】危機感のない街の風景

先日、用事があり、久々に電車に乗った。
通勤時間帯でなかったにも関わらず、結構、乗車している人がいた。
どんな不要不急でない用事があったのか。
乗客の半数は、高齢者だったw

街を歩くと、緊急事態宣言前と同じくらいの人が歩いていた。
しかも、歩いている人の多くが高齢者だった。
夫婦連れや友達らしき人と歩く高齢者は、話しながら歩いている人が多かった。
前回の緊急事態宣言では、平日の昼間に出歩いている人は少数だったw

若い人は、重症化リスクが低いので、話しながら歩く人が多いだろう。
だが、重症化リスクが高い高齢者が、話しながら歩くのは、危機感がなさすぎる。
自分だけは、感染しないと思っているのかもしれない。
高齢者が重症化すれば、医療機関などに多大なる負担が生じることを自覚して欲しいw

帰りの電車は、会社員が帰宅する時間帯だった。
前回の緊急事態宣言では、ガラガラだった車内が、結構、混みあっていた。
危機感がないのは、高齢者だけではないなと思った。
帰宅して感染者数を確認すると、緊急事態宣言の効果は感じられない数だったw

2021年1月19日火曜日

銘柄を明かさない理由R397 淀三証券出陣(後編)

第397話 淀三証券出陣(後編)

初めての出陣から数日後の早朝、兜町の淀三証券。
1階の洋間では、三助がメモを見ながら、ぱちぱちと算盤(そろばん)を弾いていた。
算盤を弾くと、机の上に広げた手帳に結果を書き込んでいた。
「さすがに算盤は手慣れたもんやな」、三助の手つきを見た勝利が感心していう。

「九代目が教えてくれたルールが、わかりやすいからです。
株を買って、年間配当以上に上がったら売る。
下がったら、そのまま上がるまで、ひたすら待つ。
三助は、買値と配当からの売値を計算するだけです」、三助が手を止めずにいう。

「相場を動かしとるのは、所詮、人間の欲や。
ほとんどの奴は、少しでも多く儲けようと欲を出して、売りが遅うなる。
ルールを決めて、欲にとらわれんよう売買すれば、絶対、勝てる」、勝利がいう。
「絶対、勝てることは、この数日でようわかりました」、三助が手を止めずに答えた。

東京証券取引所の関係者の間で、淀三証券は噂になりつつあった。
おかっぱ頭の背の高い着物姿の男が、黒板に株価が書かれると、両手で合図を出す。
合図を確認したスーツ姿の男が、脱兎の如くポストへ駆け寄り、注文を出す。
役割分担を徹底した取引で、勝ち続けているという噂だった。

初めての出陣から半年が過ぎる頃、取引規模が大きくなった淀三証券は社員を募集した。
事務方も含む3人の募集に対して、50人を超える応募があった。
応募者の中には、老舗である大手証券会社の現役社員も何人かいた。
三助の数日に及ぶ書類選考と面接の結果、3人の男女が採用されることになった。

ある日の朝、目覚めた勝利が、自室のある2階から、あくびをしながら下りてきた。
勝利が台所へ向かおうとすると、いつも三助が算盤を弾いている洋間が静かだった。
珍しく静かやな、散歩にでも出かけたんやろか。
勝利が洋間を覗くと、三助と洋服姿の見知らぬ3人の男女が椅子に座っていた。

勝利に気づいた見知らぬ3人の男女が、一斉に椅子から立ち上がっていった。
「本日からお世話になります、よろしくお願いします」
仰天した勝利は、慌てて顔を引っ込めると、三助を呼んだ。
「採用は任せたけど、今日から来るとは聞いてへんぞ」、近くに来た三助に勝利がいう。

「ホンマに申し訳ありまへん、忙しくて、九代目に伝えるの忘れてました。
申し訳ありまへんが、お祝いの言葉をいただけますでしょうか」、三助がいう。
「しゃあないな」、勝利は、3人の男女1人1人に、祝いと激励の言葉を贈った。
総勢5人となった淀三証券の新たな歴史が始まった日であった。

【エッセイ】令和2年の取引額が過去最高額だった話

証券会社から「令和2年分 特定口座年間取引報告書」が届いた。
「①譲渡の対価の額(収入金額)」が、20,748,150円。
「②取得費及び譲渡に要した費用の額等」が、19,164,534円。
「③差引金額(譲渡所得等の金額)」は、1,583,616円だったw

最初に見たとき、①が2000万円を超えていることに驚いた。
自身は年に数回しか売買せず、昨年は2回しか売却していない。
1回あたりの売却額が多かったからだが、2000万円超えとは思わなかった。
ちなみに、昨年までの①の過去最高額は、数年前の13,066,000円だったw

昨年の③1,583,616円は、②19,164,534円に対して、わずか8.2%になる。
だが、昨年の相場は、ボラティリティ(価格の変動率)が高かった。
主力株であるバリュー(割安)株は、3月から安値圏で推移していた。
相場環境のよくなかった中で、8.2%のプラスなので、合格としようw

今年の③の目標金額は、200万円。
配当金の目標金額も200万円なので、トータル400万円である。
すでに、目標を達成するためのトレードプランはできている。
あとは、プラン通りにトレードするだけであるw

2021年1月18日月曜日

【エッセイ】中高年社員にとっては試練の時代

新型ウイルスの影響により、企業は新しい生活様式への対応を余儀なくされている。
株主として、投資先の企業へ対応して欲しいことを書いてみる。
企業は営利目的の団体なので、費用対効果の最も大きい見直しが必要になる。
最も高額なのが人件費であることから、人件費の見直しが最優先であるw

先ずは、今まで社員が行っていた業務を、外注できるか検討する。
外注できる業務があれば外注するが、当然ながら、社員の業務が少なくなる。
次に、要らない社員の検討を始める。
検討の対象になるのは、費用対効果のよくない中高年社員であるw

役職の有無に関わらず、中高年社員というだけで、検討対象とする。
むしろ、役職手当のある中高年社員を、優先的に検討すべきかもしれない。
検討が終われば、中高年社員に対し、早期退職という名の退職勧奨を行う。
早期退職に応じなければ、大幅に給与を減らさなくてはならないw

残ったとしても、若手社員からは早く辞めろよと、無言の圧力を受けるだろう。
新しい生活様式では、テレワーク可能な業務は、基本、テレワークとなる。 
だが、中高年社員で、テレワークも含めたITに、スムーズに対応できる人は少ない。
中高年社員にとっては、試練の時代が来たのかもしれないw

銘柄を明かさない理由R396 淀三証券出陣(中編)

第396話 淀三証券出陣(中編)

「九代目・・・この看板は」、三助が勝利に聞く。
「表に掲げる会社の看板や」、勝利がいう。
「九、九代目・・・」、三助の目が潤みだした。
「ホンマに、三助は泣き虫やな」、勝利が呆れながらいう。

トタンの看板には白地に黒の太字で、"淀三証券"と書かれていた。
「屋号は、淀屋の"淀"と三助の"三"を合わせた"淀三(よどさん)証券"や。
これから忙しなるで、泣いてるヒマなんてあらへんで」、勝利が愛嬌のある笑顔でいう。
「は・・・はい、九代目」、三助は右手で涙を拭うと、にっこりと笑った。

勝利と三助が再会を果たした6日後の朝。
東京証券取引所前に、グレーのスーツ姿の勝利と着物姿の三助がいた。
「行くで三助、いよいよ淀三証券出陣や」、勝利がいう。
「は、はい」、緊張した様子の三助がいう。

三助は特製の高下駄を履くことで、6尺3寸(約190㎝)の背丈になっていた。
高下駄は着物で隠れているため、おかっぱ頭の背の高い男にしか見えなかった。
5尺3寸(約160㎝)の背丈の三助にとって、6尺3寸の目線で見る世界は新鮮だった。
どこまでも見通せる、背高いとよう見えるんやな、三助は思った。

東京証券取引所の立会場には、床が見えないほどの大勢の人がいた。
立会場には、業種別に分かれた馬蹄形のポスト(高台)があった。
ポストの周りを証券会社の職員が取り巻き、その内側では才取人が取引をまとめる。
取引された株価を、才取人が立会場両側の黒板に書くという仕組みだった。

当時の新聞社や通信社は、刻々と変わる株式相場を、全国の人々に知らせていた。
当時、2階にあった記者クラブに詰めて、株式相場を全国に伝えていた。
代表の時事通信社は、立会場両側にある黒板の株価を双眼鏡などで読み取っていた。
記者は読み取った株価を、電話で本社へ連絡し、報道されるという仕組みだった。

立会場では、皆が取引開始の合図である撃柝(げきたく)の音を待っていた。
拍子木に似た二枚の檜製の板である撃柝を打ち鳴らす音がすると、取引が始まった。
「買いや、買い」、「売りや、売り」、各ポストに証券会社の職員が群がった。
才取人たちが、黒板に取引が成立した株価を書き始めた。

勝利は立会場の中央に立ち、端に立った三助は双眼鏡で、両側の黒板を交互に見ていた。
勝利が三助を見ていると、三助が両手を上げ、あらかじめ決めていた、ある合図をした。
よっしゃあ、勝利があるポストに向かって、脱兎の如く駆け出し、大声で告げた。
「ここの売りに出とる株、これから売りに出る株、淀三証券が全部買いじゃあ」

2021年1月17日日曜日

【投資手法】真の株価分析とは

稀にだが、株式アナリストの株価分析を読むことがある。
彼らの株価分析は、自身にとって何の役にも立たない。
なぜなら、彼らは、売上高、利益額、PER(株価収益率)などの考察しかしていない。
株価分析であるにも関わらず、株価について分析していないのであるw

例えば、自身が保有する8306 ㈱三菱UFJフィナンシャル・グループがある。
多くの株価分析は、8306は直近の利益額が増加していない。
したがって、今後、株価が騰がる可能性は低いとしている。
なかには、今後、減配の可能性ありという、単なる憶測もあったりするw

株価には、定価であるBPS(一株当たり純資産)がある。
BPSの計算式は、純資産÷発行済み株式数。
したがって、BPSが上昇する条件は、下記の2つである。
分子の純資産が増加した場合、分母の発行済み株式数が減少した場合であるw

過去、8306は自社株買いと消却によって、発行済み株式数を減少させている。
下図は、2015年からのBPSと配当金の推移である。
BPSと配当金が、増加傾向にあることがわかる。
株式アナリストなら、少なくとも、この程度の株価分析はして欲しいものであるw

銘柄を明かさない理由R395 淀三証券出陣(前編)

第395話 淀三証券出陣(前編)

1945年(昭和20年)。
本土空襲が本格化すると、証券会社の人員不足が激しくなっていた。
やがて、火事で焼ける証券会社の本支店が続出しはじめた。
当時、兜町に残った数少ない証券マンたちは、鉄兜をかぶって、歩いて市場へ来ていた。

同年8月9日、長崎に原爆が投下されると、日本証券取引所は「当分休会」を宣言。
日本証券取引所は閉鎖され、終戦を迎えた。
1949年(昭和24年)4月1日、東京、大阪、名古屋に、証券取引所が設立された。
市場再開に先立ち、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が取引所の実地調査を行った。

大阪証券取引所を視察したGHQは、長い間の商慣習「仕切り売買」の要望を耳にした。
取引所を通さない店頭売買、「仕切り売買」の要望を耳にしたGHQは態度を急変させた。
同年4月20日、GHQのアダムズ証券担当官から、証券取引委員会へ再開要件が提出された。
再開要件は、「証券取引3原則」で、以下の3原則が要件だった。

(1)それまで自由に行われていた上場銘柄の店頭仕切り売買を禁止し、原則として、すべての取引を取引所に集中させ、公正な価格形成と流通の円滑化を図る。
(2)売買伝票に受託時間と売買成立時間を正しく記録させ、業者の不正又は過誤の生ずる余地を無くし、投資家保護を図る。
(3)従来の清算取引、すなわち差金の授受を目的する投機的取引を禁止して実物取引一本とし、取引の健全化を図る。

「証券取引3原則」は、戦前の証券取引制度の根本的改革を意味するものだった。
GHQの態度は強硬であり、開設が先決と判断した取引所関係者は受諾を決定した。
旧慣習の復活に、期待をかけていた証券業者にとっては、大きなショックであった。
同年5月16日、受諾決定により、関係者にとって念願だった売買立会が開始された。

同年8月30日。
大阪からやってきた三助は、東京駅で九代目の勝利が迎えに来るのを待っていた。
行き交う人の多さに、着物姿で風呂敷を背負った三助は圧倒されていた。
「お~い、三助」、三助が声がした方を見ると、九代目の勝利がいた。

七三分けリーゼントの勝利は、白無地シャツに白のズボンとエナメル靴の装いだった。
「よう来てくれたな、ほな、ワテと三助の住居兼仕事場に案内するわ」
2人は徒歩で、日本橋兜町へ向かった。
「着いたで」、勝利と三助の前に、建って間もない木造瓦葺きの2階建てがあった。

「こ、ここは」、三助が聞くと、勝利がいった。
「本家が持ってた土地に建てたんや、これから、ここがワテと三助の東京の拠点や」
勝利は鍵を開けると、玄関の引戸を開いて、三助を招き入れた。
玄関の床は土間になっており、壁には畳一帖ほどあるトタンの看板が立てかけてあった。

2021年1月16日土曜日

【エッセイ】引退したがらない高齢者の話

国の「働き方改革」の中に「高年齢者雇用対策」がある。
高年齢者雇用対策は、高年齢者が健康で、意欲と能力がある限り、年齢にかかわりなく働き続けることができる社会の実現を目指しているらしい。
素晴らしい対策のように思えるが、自身には素晴らしい対策とは思えないw

本来なら、定年を迎えたら、働かなくてもよい年金生活である。
定年後も健康である間、働くなら、年金生活は人生からなくなることになる。
確かに、高齢者の見た目は、以前と比較して、若くなっている。
だが、現役世代と比べると、高齢者の能力は明らかに劣っているw

自身の弟が、父親から引き継いだ会社がある。
従業員は1人で、役員で70代の母親が事務をしているが、最近は赤字らしい。
先日、母親が「当座預金の残高不足で引き落としができないと銀行から連絡があった。
でも、その日のうちに入金したので間にあった」と笑いながら話していたw

当座預金の残高不足は、不渡りにならなくても、金融機関の信用はダダ下がりである。
母親は月額いくらかの給与を貰っているが、当座預金の残高確認を失念していた。
自身は、赤字の原因でもある母親に引退するよういってるが、一向に引退したがらない。
自身は、高年齢者雇用対策で、能力の劣る高齢者が働かないことを願っているw

銘柄を明かさない理由R394 還って来た男(後編)

第394話 還って来た男(後編)

「寝るんやない、起きんかい」、勝利は片腕を失った同期に声をかけた。
「よ、淀屋、こ、これを頼む・・・」、同期は勝利に家族への遺品を、残った手で渡した。
「お前もや、寝るな、目を開けんかい」、勝利は別の血まみれの同期に声をかけた。
「い、今までありがとうな・・・淀屋・・・」、血まみれの同期はいうと、目を閉じた。

お月様は、いつもワテのこと、見てたよな。
ワテがこれから、どうやって生きたらええのか、教えてくれへんか。
いつしか、勝利の頬には、光るものが流れていた。
「九代目」、背後から三助の声がした。

三助の声は聞こえたが、勝利は振り向かず、月を見ていた。
「きれいな月や、まん丸できれいや」、勝利の横に来た三助がいう。
しばらく、2人は無言で、月を見ていた。
「九代目・・・これから、どうしはるんでっか」、三助が勝利に聞く。

「そうやな、まずは同期から預かった遺品を、遺族に届ける旅に出る。
また留守にするけど、頼むな、三助」、勝利が三助にいう。
「旅が終わったら、どうしはるんでっか」、三助が聞く。
「どうしたらええかは、お月様が教えてくれるやろ」、勝利がいった。

「九代目、どうするか決まったら、三助に教えてください。
三助も、お月様の教えを聞きとうございます」
「三助、お前はホンマに手間がかかる奴やな」
勝利は、三助を見ると、愛嬌のある笑顔を浮かべていった。

1949年(昭和24年)の夏、淀屋初代本家が営む大阪の米問屋。
奥座敷では番頭の三助が目を潤ませながら、一枚の葉書を読んでいた。
「どない、しはりました、なんで泣いてはるんでっか」、手代の男が三助に聞いた。
「九、九代目は東京におるそうや」、三助がいう。

「そんなことで泣いてはるんでっか」、手代の男が呆れた様子でいう。
「しかも、三助も東京へ来いというてくれてるんや」、三助が泣き笑いの顔でいった。
「ほな、番頭は東京へ行かはるんでっか」、手代の男が聞く。
「当たり前や、九代目のお誘いや、行くに決まっとるがな」、三助が嬉しそうにいった。

1週間後の東京駅、三助は迎えに来た九代目の勝利と、数年ぶりの再会を果たした。
この年の4月1日、東京の兜町には東京証券取引所が設立されていた。
勝利は、東京証券取引所での株取引を手伝ってもらうため、三助を呼び寄せた。
このとき2人は、自分たちが伝説となる仕手戦に関わるとは、思いもしていなかった。

2021年1月15日金曜日

銘柄を明かさない理由R393 還って来た男(中編)

第393話 還って来た男(中編)

淀屋九代目当主の勝利が復員すると、大阪の本家では祝宴が繰り広げられた。
「大変だったじゃろう、飲め、飲め」、「よくぞ、生きて帰ってきた」
物資不足の中での盛大な祝宴に、勝利は違和感を感じていた。
なんや、なんや、このとんでもない違和感・・・。

「九代目が復員して、淀屋も安泰じゃな」、赤ら顔の叔父が笑いながらいった。
「ちと、用を足してくるわ」、勝利は席を立った。
淀屋の本家は、回廊づくりの木造家屋だった。
厠で用を足した勝利は、池のある中庭に出ると、夜空の月を眺めた。

第二次世界大戦終盤の1943年(昭和18年)。
兵力不足を補うため、高等教育機関に在籍する20歳以上の学生が、徴兵された。
学徒出陣の対象は、大学、高等学校、専門学校に在籍する文科系学生であった。
彼らは各学校に籍を置いたまま休学とされ、徴兵検査を受け入隊する学徒出陣だった。

1943年(昭和18年)10月21日。
東京都四谷区の明治神宮外苑競技場で、"出陣学徒壮行会"が実施された。
壮行会の様子は、社団法人日本放送協会(NHK)が、2時間半にわたり実況中継した。
また、映画「学徒出陣」が製作されるなど、劇場化され軍部の民衆扇動に使われた。

秋の強い雨の中、観客席で見守る多くの人々の前で、出陣学徒の入場行進が行われた。
宮城(皇居)遙拝、東條首相による訓辞、「海行かば」の斉唱、などが行われた。
出陣学徒は学校ごとに大隊を編成し、大隊名を記した小旗の付いた学校旗を掲げた。
学生帽・学生服に巻脚絆をした姿で、小銃を担い列した。

学徒出陣の出征者の多くが、富裕層の出身であった。
将来社会の支配層となる予定の男子学生が、戦場に向かった意味は大きかった。
日本国民全体に、総力戦への覚悟を迫る象徴的出来事となった。
東京の大学生だった淀屋本家九代目当主の勝利も、学徒出陣で満州国へ向かった。

壮行会を終えた学生は徴兵検査後、同年12月に陸軍へ入営あるいは海軍へ入団した。
入営時には幹部候補生試験などを受け、将校・下士官として出征した者が多かった。
だが、戦況が悪化すると、全滅も起こった激戦地に配属され、戦死する学徒兵も現れた。
終戦間近には、特別攻撃隊に配属され、戦死する学徒兵も、多数現れた。

終戦間近、ソ連軍が参戦すると、勝利と同期の学徒兵たちの部隊はソ連軍と戦った。
月明かりしかない夜間の平地での戦闘は、この世の地獄絵図と化していた。
絶え間なく銃弾が飛び交う中、周囲では砲弾が炸裂していた。
勝利の周りには、負傷した同期の学徒兵が、いたるところに転がっていた。

【コラム】緊急事態宣言でわかったこと

あまり時事ネタは書きたくないが、緊急事態宣言でわかったことを書いてみる。
自身のことでは、現在、受給中の失業給付の給付日数が60日延長になること。
受給には求職活動が必要だが、緊急事態宣言中は求職活動しなくても受給できるらしい。
よって、何もしなくても、60日分の約50万円ほどの失業給付を受給できることw

緊急事態宣言では、様々な対応を迫られている。
飲食店の時短営業、不要不急の外出・移動自粛、テレワークによる出勤者削減などなど。
自身は自炊しているので、飲食店の時短営業の影響は受けない。
普段から、不要不急の外出はしておらず、年に数回の株取引は自宅から行っているw

世間では、緊急事態宣言の時期など、不満の声が多くある。
不満の矛先は、政府に向けられていることが多い。
だが、自身からすると、政府に不満の矛先を向けるのは、違和感がある。
なぜなら、緊急事態宣言を出す原因を作ったのは、政府ではないからであるw

緊急事態宣言を出した感染拡大の一因といわれている、GO TOキャンペーン。
そもそも、利用者が気をつけていれば、感染拡大することはなかったはずである。
キャンペーン停止時期が遅い等、政府に文句をいうのは、自責でなく他責である。
もしくは、自分にとって都合の悪い情報を無視する、正常性バイアスかもしれないw

2021年1月14日木曜日

銘柄を明かさない理由R392 還って来た男(前編)

自身はオリジナル小説「銘柄を明かさない理由R」を執筆している。
「銘柄を明かさない理由R」は、5人の無敗の相場師と取り巻く人々の物語である。
現在、新シリーズの「出羽の天狗(でわのてんぐ)編」を執筆中である。
「出羽の天狗編」では、東の本間と西の淀屋の戦いが物語の軸となる。

ある登場人物から、過去の両家の争いを書かんかい、とリクエストがあった。
よって、過去に両家の間にあったことを書くことにする。
いったん、時を太平洋戦争の終戦後に戻すことにする。
では、「銘柄を明かさない理由R 出羽の天狗編」をお届けするw
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第392話 還って来た男(前編)

1946年5月、快晴の日本海に面する舞鶴港。
舞鶴港は、本州の日本海沿岸が南に入り組んだ若狭湾西部の舞鶴湾にある港。
外海に対して入り江になっており、「みずなぎ」と呼ばれる湾内は極めて静穏である。
また四方を山々に囲まれており、強風・荒天を避けることのできる天然の良港でもある。

その日、一隻の復員船が舞鶴港に着岸した。
港では出迎えていた人々が、復員してきた人々との再会を喜んでいた。
「なんで、誰も来てへんねん」
復員船から降りてきた、若い軍服姿の男は、周りを見ると、ふてくされた様子でいった。

「九代目~」、軍服姿の男に声がかけられた。
軍服姿の男が振り返ると、おかっぱ頭で着物姿の若い男が走り寄ってきた。
「おう、番頭の三助やないけ、久しぶりやな」、軍服姿の男が若い男にいった。
「お元気そうで何よりです」、三助と呼ばれた若い男が目を潤ませていった。

「元気で当たり前や、ワテが元気でないわけ、あらへんやろ」、軍服姿の男がいう。
「東京で学徒出陣された九代目と、またお会いできるとは・・・」、三助が泣き始めた。
「何を泣いてんねん、出迎えは三助だけか」、軍服姿の男が聞く。
「さ・・・三助だけではありまへん」、三助が泣きじゃくりながら右手を挙げた。

「チンチン♪ドンドン♪チンドンドン♪」
チンドン太鼓と呼ばれる楽器を奏でる、着物姿の男女の一団が現れた。
背中に指した旗には、「お帰りなさい九代目」、「日本一のご帰還」と書かれていた。
周囲の人々が驚く中、チンドン屋は軍服姿の男の周りで、チンドン太鼓を奏でた。

「いくらなんでも、目立ちすぎやろ」、軍服姿の男が小声で、三助にいう。
「ま・・・まだ、大道芸もあります」、三助が泣きじゃくりながらいう。
「歓迎してくれたんはわかったから、この場から離れさしてくれ」、軍服姿の男がいう。
「わ・・・わかりました」、三助が泣きじゃくりながら、左手を挙げた。

三助が左手を挙げると、のぼりを立てたリヤカーを引く牛を連れた、初老の男が現れた。
「九代目には車を用意したかったのですが、こんなものしか用意できまへんでした。
ホンマに申し訳ありまへん」、三助が激しく泣きじゃくり始めた。
「なに、いうてんねん、ワテには贅沢すぎや、ありがとな」、軍服姿の男が笑顔でいう。

軍服姿の男は、意気揚々と、のぼりを立てたリヤカーに乗り込んだ。
牛に引かれたリヤカーは、最寄り駅の方角へ向け、のんびりと進み始めた。
軍服姿の男たちがいなくなると、港にいた人々は、彼らのことを噂しあった。
後に、人々は、軍服姿の男が淀屋九代目当主、淀屋勝利(かつとし)であることを知った。

【現在の株式評価額】20210114~社会人2年目の保有株評価額が600万円超に~

Y&Kファンド(4銘柄)
・取得額合計:29,196,513円
・配当金合計:1,657,000円(配当利回り:5.68%)
・評価額合計:38,580,500円(BPS:90,778,420円)
・損益額合計:9,383,987円(損益率:32%)

Rファンド(1銘柄)
・取得額合計:1,191,522円
・配当金合計:300,000円(配当利回り:25.18%)
・評価額合計:6,013,200円(BPS:15,374,640円)
・損益額合計:4,821,678円(損益率:405%)

Mファンド(7銘柄)
・取得額合計:9,745,632円
・配当金合計:297,300円(配当利回り:3.05%)
・評価額合計:6,786,650円(BPS:15,041,891円)
・損益額合計:-2,958,982円(損益率:-30%)

Y&KファンドとRファンドおよびMファンドの評価額が、今年の最高額を更新した。
日経平均の5連騰を上回る、バリュー(割安)株の6連騰のおかげである。
娘の資産を運用しているRファンドは、初めて評価額が600万円を超えた。
社会人2年目で、保有株評価額が600万円超えの人は、多くいないだろうと思っているw

Rファンドは、8306 ㈱三菱UFJフィナンシャル・グループへの集中投資。
昨年、8306は運用開始以来の安値圏だったので、過去最多となる4回の買いを入れた。
最も安く買えたのは、年初来安値380円より5円高いだけの、385円だった。
今後、300円台で買える機会は、来ないのではないかと思っているw

2021年1月13日水曜日

銘柄を明かさない理由R391 神楽笛の男(後編)

第391話 神楽笛の男(後編)

東北地方のローカル線の無人駅。
朱蘭の屋敷を出た5人の分家の男が歩いて、無人駅にやってきた。
男たちは、券売機で切符を買うと、待合室のベンチに腰掛けた。
男たちが乗車する電車が到着する時間までは、30分以上あった。

「思っていたより、簡単だったな」、男が右手で髭の伸びた顎をさすりながらいう。
「最初の座学なんか退屈すぎて、あくびが出そうだった」、別の男がいう。
「お前もか、俺も居眠りしそうになったよ」、最初の男が笑いながらいう。
「静かにしろ、誰かに聞かれたらどうする」、リーダーらしい男がいう。

「誰もいない無人駅ですよ、誰かに聞かれる心配はありませんよ」、最初の男がいう。
「しかし、最終の神社での"本間の荒行"は笑えたな。
徹夜で同じことを言い続けるなんて、いつの時代の話だよ。
今は、俺たちのように録音した音声を流す時代だろ」、2番目の男が笑いながらいう。

男たちが"本間の荒行"のことで談笑していると、腰の曲がった高齢の女性がやってきた。
男たちが話すのをやめると、高齢の女性は待合室のベンチに腰掛けた。
「あんたら、見かけん顔じゃな」、高齢の女性が男たちにいった。
「ええ、旅の途中に立ち寄ったもので」、リーダーらしい男がいう。

「ほうか、道理で見かけん顔じゃわい」、高齢の女性は納得したようだった。
やがて、同じ電車に乗る人たちが、やってきた。
やってきたのは、女子中学生の2人組、幼い女の子を連れた母親だった。
誰一人、言葉を発することなく、静かに電車が到着するのを待っていた。

電車が到着する10分前、神楽笛(かぐらぶえ)の優雅な音色が聴こえてきた。
黒のスーツ姿の本間宗矩が、神楽笛を吹きながら、無人駅に現れた。
肩まで伸びた黒髪を風になびかせた宗矩は、5人の男を見ると、音色を変えた。
それまでの優雅な音色とは異なる、聴く者を戦慄させる甲高い音色だった。

神楽笛を吹き続ける宗矩は、5人の男を見続けていた。
5人の男が、得体のしれない恐怖におののく中、神楽笛の音色がやんだ。
神楽笛を吹くことをやめた宗矩が、5人の男を見据えると告げた。
「分家筆頭の本間宗矩が、朱蘭様のご意向を伝える、今回の任務から降りよ」

高齢の女性、女子中学生の2人組、幼い女の子と母親が、一斉に歌いだした。
「酒田照る照る、堂島曇る、江戸の蔵米(くらまい)雨が降る~。
本間さまには及びもないが、せめてなりたや殿様に~」
「わ、わ、わかりました」、リーダーらしい男が震えながらいった。

【現在の株式評価額】20210113~バリュー株の5連騰で最高評価額更新~

Y&Kファンド(4銘柄)
・取得額合計:29,196,513円
・配当金合計:1,657,000円(配当利回り:5.68%)
・評価額合計:38,517,500円(BPS:90,778,420円)
・損益額合計:9,320,987円(損益率:32%)

Rファンド(1銘柄)
・取得額合計:1,191,522円
・配当金合計:300,000円(配当利回り:25.18%)
・評価額合計:5,948,400円(BPS:15,374,640円)
・損益額合計:4,756,878円(損益率:399%)

Mファンド(7銘柄)
・取得額合計:9,745,632円
・配当金合計:297,300円(配当利回り:3.05%)
・評価額合計:6,748,150円(BPS:15,041,891円)
・損益額合計:-2,997,482円(損益率:-31%)

Y&KファンドとRファンドおよびMファンドの評価額が、今年の最高額を更新した。
日経平均の4連騰を上回る、バリュー(割安)株の5連騰のおかげである。
各ファンドが保有するバリュー株に、8306 ㈱三菱UFJフィナンシャル・グループがある。
下図は、8306の1か月チャートだが、テクニカルの買いサインが現れているw

昨年の3月以降、安値圏で推移していた8306は、大発会後に上値を試す局面に入った。
株価480円付近で、売り方と買い方の勢いが拮抗したことを示す"十字線"が現れた。
安値圏の"十字線"は、売り方の勢いを止めたことになり、上昇への転換になることが多い。
今もBPS(定価)の半値に満たない株価の8306、どこまで騰がるか楽しみであるw

2021年1月12日火曜日

銘柄を明かさない理由R390 神楽笛の男(中編)

第390話 神楽笛の男(中編)

本間本家十一代目当主である本間朱蘭は、これまでの人生を思い返していた。
ふと、朱蘭が顔を上げると、左手に神楽笛を持つ同年代の男が立っていた。
同年代の男は、艶やかな和服の朱蘭とは対照的な、黒のスーツを身に着けていた。
細身の体型と肩まで伸びた艶のある黒髪が、朱蘭との共通点だった。

「相変わらず、気配を感じさせんな」、朱蘭がいう。
「ストーカーに、なれますでしょうか」、男が笑みを浮かべていう。
「もう少し、マシなたとえはできんのか」、朱蘭が呆れながらいう。
「申し訳ございません、なにぶん、語彙(ごい)が少ないもので」、男がいう。

「語彙ではなく、別の問題じゃ、何かいいたいことがあるのか」、朱蘭がいう。
「あの5人は"本間の荒行"を終え、本間の秘伝を体得したと仰られました」、男がいう。
「そうじゃ、あの5人は"本間の荒行"を終え、本間の秘伝を体得した」、朱蘭がいう。
「あの5人、"本間の荒行"を終えておらず、本間の秘伝も体得していません」、男がいう。

「なぜ、わかる」、真顔になった朱蘭が男に聞く。
「あの5人は、分家の中から選ばれましたが、長らく地元を離れていた者ばかり。
そんな5人が、"本間の荒行"をやり遂げることができるのか、陰から見ておりました。
見ていると、あろうことか、暖をとりながら、食事をしておりました。

"本間の荒行"は秘伝を唱えるとき以外、口を開くことは厳禁でございます」、男がいう。
「証拠はあるのか」、朱蘭がいう。
男は、スーツの内ポケットから、数枚の写真を取り出すと、朱蘭に手渡した。
男たちが、暖をとりながら、食事をしている写真を見た朱蘭は、深い溜息をついた。

「あの5人には、今回の任務から降りるよう伝えます」、男がいう。
「わかった、あとの手はあるのか」、写真を返しながら、朱蘭が尋ねる。
「朱蘭様さえ、よろしければ、私にお任せいただけますでしょうか。
必ずや、淀屋を手痛い目に遭わせてみせましょう」、男がいった。

「もし、私が当主にならなければ、分家筆頭のそなたが当主になっていた。
そなたは、歴代最年少の13歳で、"本間の荒行"を成し遂げ、秘伝を体得した。
淀屋を手痛い目に遭わせる件は、そなたに任せることにする」
目を細めた朱蘭は、男に告げた。

「ありがたき幸せにございます」、男は朱蘭に頭(こうべ)を垂れた。
「わかっておろうが、くれぐれもしくじるなよ、本間宗矩(ほんまむねのり)。
宗久翁の呼び名だった"出羽の天狗(でわのてんぐ)"と呼ばれし男」
「仰せのままに」、"出羽の天狗"こと、宗矩は頭を深く垂れた。

【現在の株式評価額】20210112~バリュー株の上昇で損益額900万円超~

Y&Kファンド(4銘柄)
・取得額合計:29,196,513円
・配当金合計:1,657,000円(配当利回り:5.68%)
・評価額合計:38,393,500円(BPS:90,778,420円)
・損益額合計:9,196,987円(損益率:32%)

Rファンド(1銘柄)
・取得額合計:1,191,522円
・配当金合計:300,000円(配当利回り:25.18%)
・評価額合計:5,931,600円(BPS:15,374,640円)
・損益額合計:4,740,078円(損益率:398%)

Mファンド(7銘柄)
・取得額合計:9,745,632円
・配当金合計:297,300円(配当利回り:3.05%)
・評価額合計:6,679,300円(BPS:15,041,891円)
・損益額合計:-3,066,332円(損益率:-31%)

Y&KファンドとRファンドおよびMファンドの評価額が、今年の最高額を更新した。
バリュー(割安)株の上昇で、Y&Kファンドの損益額は、900万円超となった。
昨年の相場で、バリュー株は大きく値を下げ、安値のボックス圏で推移していた。
バリュー株を保有している読者の方には、おめでとうと伝えたいw

新型ウイルスの経済対策として、各国は大規模な金融支援を行った。
国債の価格は下がり、現金はインカムゲインを得ることができる株式市場へ流入している。
これらの環境により、バリュー株への投資はローリスクハイリターンとなっている。
物価の上昇も考慮すれば、バリュー株へ投資しているだけで勝ち組といえるだろうw

2021年1月11日月曜日

銘柄を明かさない理由R389 神楽笛の男(前編)

第389話 神楽笛の男(前編)

「宗久翁(そうきゅうおう)が編み出し秘伝、"酒田の五法(さかたのごほう)"。
"本間の荒行"で"酒田の五法"を体得した、そなたらに命ず。
淀屋初代本家のヨドヤ コウヘイ、二代目本家のヨドヤ タエを手痛い目に遭わせい」
「承知いたしました」、平伏した男たちが答えた。

男たちは立ち上がると、後ろを振り返ることなく、東京へ向かうべく出ていった。
豪華な朱色の椅子に坐った艶やかな和服姿の1人の女性は、これまでの人生を思った。
女性の名は、本間朱蘭(ほんましゅらん)といい、本間本家の十一代目当主だった。
朱蘭が物心ついたとき、朱蘭には年の離れた兄、正勝(まさかつ)がいた。

生まれつき、身体の弱かった兄は、伏せっていることが多かったが、朱蘭には優しかった。
ある日、幼い朱蘭は襖の陰に隠れて、伏せっている兄を心配そうに見ていた。
「隠れてないで出ておいで、僕は大丈夫だよ」、兄は優しく微笑みながら朱蘭にいった。
やがて、朱蘭は、自分の母親は後妻で、兄は先妻の子供であることを知った。

本間本家で跡取りとなる男子は、18歳の冬に"本間の荒行"を行う必要があった。
最初の2日間は、昼夜を問わず、本間一族の歴史と宗久翁の秘伝を学ぶ。
最終段階は、山奥の神社に出向き、滝に打たれ、夜通し秘伝を唱えるという荒行だった。
兄が18歳になった冬、兄の"本間の荒行"が始まった。

「行ってくるよ、母さん、朱蘭」
2日間の座学を終えた兄は、先代の父に連れられて、最終段階の神社での荒行へ向かった。
3日後、父に背負われて帰ってきた兄は、心身ともに衰弱し、極度の高熱を発していた。
かかりつけ医の懸命な治療の甲斐なく、10日のちに、兄は18歳の若さでこの世を去った。

通夜の席にやってきた兄の母親である先妻は、棺にすがり号泣した。
皆が悲しみに暮れる中、突然、先妻の号泣が止まった。
先妻は鬼のような形相で振り返ると、父親と後妻である朱蘭の母親を睨みつけた。
「私と一緒にいたら、この子は死なずにすんだ、おのれらがこの子を殺した、この人殺し」

絶叫しながら2人につかみかかろうとした先妻は、周囲の親族に取り押さえられた。
翌日の葬儀、先妻は放心状態で、誰が話しかけても、うめき声しか出さなかった。
「あまりの哀しみに気がふれたようじゃ」、「可哀そうに」、誰もが哀れんだ。
葬儀が終わると、兄の遺影とともに先妻はいなくなっていた。

朱蘭が18歳になると、多くの見合い話が持ち込まれたが、朱蘭は一切、取り合わなかった
冬が訪れると、朱蘭は父親に"本間の荒行"を行うと告げた。
両親は猛反対したが、朱蘭の決意は固く、女性初となる"本間の荒行"が行われた。
見事に"本間の荒行"をやり遂げた朱蘭は、本間本家史上初の女性当主になった。