2021年1月24日日曜日

銘柄を明かさない理由R402 鬼神と呼ばれた男(中編)

第402話 鬼神と呼ばれた男(中編)

淀三証券の徒歩圏に、兜(かぶと)証券があった。
兜証券は、外壁に赤煉瓦が用いられた2階建ての建物だった。
翌日の朝、兜証券の玄関前には、グレーのスーツ姿の勝利と着物姿の三助がいた。
「ほな、行くで」、勝利は三助にいうと、玄関扉を開けた。

中には木製カウンターがあり、カウンターの奥には数名の社員がいた。
「いらっしゃいませ」、入口に近い木製カウンター奥の女性社員がいう。
三助を連れた勝利は、女性社員に向かった。
「あ、あの、どのようなご用件で」、女性社員が聞く。

「淀三証券の淀屋勝利や、社長に話がある、取り次いでもらえるか」、勝利がいう。
「お約束はおありでしょうか」、女性社員が聞く。
「約束はあらへん、淀三証券の話を聞く気があるのか、聞いてくれるか」、勝利がいう。
「少々、お待ちください」、女性社員が席を立ち、奥にいる男性社員に相談した。

相談された男性社員が席を立ち、勝利たちに向かって歩いてきた。
「お客様、せっかくですが、お約束がないと、お取次ぎできないことになっております。
申し訳ないですが、お約束していただいてから、お越しいただけますでしょうか」
真面目そうな年配の男性社員が、手もみしながらいう。

「あんたが社長か」、勝利が手もみする男性社員にいう。
「いいえ、私はこの部署の責任者でございます」、手もみする男性社員がいう。
「ほな、社長に聞いてくれや」、勝利がいう。
「ですから、お約束がないと、お取次ぎはできません」、手もみする男性社員がいう。

「社長に、淀三証券の話を聞く気があるのか、聞いてくれるか」、勝利がいう。
「で、ですから、お約束がないと、お取次ぎはできません」
男性社員が手もみをしながら、強張った顔でいう。
「社長に、淀三証券の話を聞く気があるのか、聞いてくれるか」、勝利がいう。

「で、で、ですから、お、お約束がないと、お、お、お取次ぎはできません」
手もみをやめた男性社員が、ヒステリックな口調でいう。
延々と2人のやりとりが続く中、奥にある階段から、黒のスーツ姿の男が降りてきた。
降りてきた男は、髪をオールバックにしており、右目に黒い眼帯をしていた。

社員たちが席を立ち、黒い眼帯の男に向かい、直立不動の姿勢になった。
静まり返る事務所の中、黒い眼帯の男が、勝利に向かって歩いてきた。
黒い眼帯の男は歩みをとめると、勝利にいった。
「社長の犬神(いぬがみ)だ、上で話を聞こうか」

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