2021年1月4日月曜日

銘柄を明かさない理由R380 名のなき世界の片隅で(前編)

自身はオリジナル小説「銘柄を明かさない理由R」を執筆している。
「銘柄を明かさない理由R」は、5人の無敗の相場師と取り巻く人々の物語である。
現在、新シリーズの「出羽の天狗(でわのてんぐ)編」を執筆中である。
ある程度、書き溜めてから公開する予定だったが、公開することにしたw

小説を書いたことがある方は、わかるかもしれない。
書き始めると、登場人物が勝手に動き出し、作者に催促するのである。
「俺たち、私たちの話を、早く公開しろ」と。
では、「銘柄を明かさない理由R 出羽の天狗編」をお届けするw
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第380話 名のなき世界の片隅で(前編)

深夜、塀に上った男は、設置された鉄条網を越え、塀を降り始めた。
塀のわずかなくぼみに手と足をかけながら、ゆっくりと降り始めた。
左右にある監視塔からは、規則的な動きをするサーチライトが放たれていた。
地面に降り立った男は、その場にかがむと、肩で静かに息をした。

1つ目の塀を越えることができた。
2つ目の塀を超えれば、待望の自由が手に入る。
ようやく、ここまで来たんだ、もう引き返すことはできないぞ。
覚悟を決めた男は、サーチライトが前方の地面を照らす間隔を確認していた。

行くか、男は静かに立ち上がると、サーチライトが目の前の地面を照らすのを待った。
サーチライトが目の前の地面を照らすと、離れていった。
今だ、男は2つ目の塀へ向けて、全力で駆け出した。
あと少しだ、そう思った男をサーチライトがとらえた。

「Schießen(撃て)」、監視塔のスピーカーから声が聞こえた。
次の瞬間、監視塔に複数の閃光が生じ、銃声がした。
銃弾を浴びた男は、ひざから崩れ落ちると、動かなくなった。
「Genesung(回収)」、再び、監視塔のスピーカーから声がした。

2つ目の塀の外側にある建物には、日系二世の米国軍人であるブラウン・アズマがいた。
また、東ドイツから脱出しようとしたドイツ人の尊い命が奪われた。
国が分断されたことで、ドイツ人が同じドイツ人の命を奪う。
一刻も早く、この悲劇を終わらせなくてはならない、アズマは思った。

アズマは、米国で生まれ育った日系二世だった。
日系二世は、第二次世界大戦が始まると、内陸部の強制収容所に抑留された。
やがて、米国軍の志願兵募集があり、他の二世たちと同じく、アズマは手を挙げた。
訓練を終えたアズマは、第442連隊戦闘団に配属され、ヨーロッパ戦線に投入された。

第442連隊戦闘団に従軍した約14,000人の死傷率は、314%に達した。
この数字は、一人平均、3回以上の死ぬような大怪我をしたということを示している。
同連隊の9,486人は、パープルハート章(名誉負傷章)を授与された。
同連隊は、アメリカ合衆国史上、最も多くの勲章を授与された部隊となった。

第二次世界大戦が終わると、アズマは西ドイツの駐留部隊へ配置転換された。
1961年8月13日午前0時、ソ連と東ドイツが、西ベルリンを包囲した。
その後、巨大な"ベルリンの壁"を建設、ドイツは分断された。
今、アズマは、東西冷戦の最前線である"ベルリンの壁"の西ドイツ側にいた。

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