2021年1月28日木曜日

銘柄を明かさない理由R407 別れの時(前編)

自身はオリジナル小説「銘柄を明かさない理由R」を執筆している。
「銘柄を明かさない理由R」は、5人の無敗の相場師と取り巻く人々の物語である。
現在、新シリーズの「出羽の天狗(でわのてんぐ)編」を執筆中である。
「出羽の天狗編」では、東の本間と西の淀屋の戦いが物語の軸となる。

本間大蔵と淀屋勝利の戦いを書いた"第30章 伝説の仕手戦"。
いよいよ、第30章の終わりが近づきつつある。
書き終えていたが、登場人物たちから依頼があった訂正に追われている。
では、「銘柄を明かさない理由R 出羽の天狗編」をお届けするw
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第407話 別れの時(前編)

1953年(昭和28年)2月12日。
兜証券の社長室には、黒い眼帯をした社長の犬神、淀三証券の勝利と三助がいた。
ソファに坐る3人の前に、お茶を出した秘書が退室した。
「悔いはないのか、返済期限を延ばしてもいいんだぞ」、犬神がいう。

「男と男の約束を守れんかったんや。
淀三証券は兜証券のもんや、悔いはあらへん」、勝利がいう。
「東証(東京証券取引所)の臨時立会停止がなければ、間違いなく勝っていた。
今回の敗因は淀屋じゃなく、外部要因の不可抗力だろう」、犬神がいう。

「確かに、犬神はんのいう通りかもしれへん。
けど、負けたことに変わりはあらへん、淀三証券をよろしく頼んます」、勝利がいう。
犬神は淀屋の才能をかっており、何とか残って欲しいと思っていた。
「淀屋、お前の望みは何だ、俺が叶えられることか」、犬神が勝利に聞いた。

「望みでっか」、勝利はいうと考え始めた。
望みなんて考えたことなかったな・・・そうや、1つだけあったわ。
勝利は愛嬌のある笑みを浮かべると、犬神にいった。
「犬神はん、明日の朝、淀三証券に来ていただけまっか」

翌朝、兜町の淀三証券。
1階の洋間には、三助と白井と板垣の3人が、元気なく椅子に座っていた。
玄関の引き戸が開く音がすると、犬神を連れたグレーのスーツ姿の勝利が現れた。
「おはよう、どないしたんや、元気ないな」、勝利がいう。

三助、白井、板垣の3人は、うつむいたままだった。
「山崎はどうした、なんで、おらへんねん」、勝利が聞く。
「山崎は体調不良で休みです」、ロイド眼鏡をかけた白井がいう。
「そうか、ほな、始めようか」、勝利がいった。

勝利は、白井、板垣を見渡せる位置に立った。
勝利の後ろには、三助と黒のスーツ姿の犬神が立っていた。
「え~とやな、ワテの失態で、淀三証券を兜証券に譲渡することになった。
今までいろいろとありがとうな」、勝利がいった。

「社長、辞めないでください」、白井がロイド眼鏡を外して、涙を拭った。
「これから面白くなると思ってたのに・・・」、板垣は必死で泣くのをこらえていた。
「最後やから、いうといたるけど、お前ら2人はホンマに足手まといやったわ」
白井と板垣に、勝利が声のトーンを落としていった。

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