2023年6月24日土曜日

銘柄を明かさない理由R006 その名はアルカディア(後編)

第006話 その名はアルカディア(後編)

2007年11月、東京都中央区日本橋の証券会社。
かって倉庫だった部屋は、トレードルームに生まれ変わっていた。
天井から床までの内装は白で統一され、一面の壁には多くのモニターが埋め込まれていた。
内装が白である点を除けば、軍の司令部を思わせる空間になっていた。

モニター前には、クジョウと秘書室の姫宮が立っていた。
2人に向かって、選考試験の仮想トレードで7位までの女性社員が立っていた。
クジョウが、自社の資産運用部署「アルカディア」の説明を行っていた。
クジョウの説明は、以下の内容だった。

・目的は、自社の資産運用。
・当日の具体的な指示は、クジョウが行う。
・平時は日替わりで1名が勤務する。
・相場に大きな動きがあったときなどは、全員を招集する。

「何か、質問はあるか」、クジョウがいう。
仮想トレード3位だった経理の神崎が挙手したので、クジョウが質問を促した。
「試験のときに男性社員がいましたが、どうして女性社員だけなんですか」、神崎がいう。
「成績上位7名が女性社員だったからだよ」、クジョウがいう。

「男性社員の中にはトレーダーの方もいましたが、本当でしょうか」、神崎がいう。
「本当だ、君たちは彼らより成績がよかった。
事前に説明があったと思うが、あの試験は、安く買って高く売ることが目的だった。
彼らは損失を確定したが、君たちは誰も損失を確定しなかった」、クジョウがいう。

仮想トレード6位だった人事の石田が挙手したので、クジョウが質問を促した。
「ここでの仕事で何か手当みたいなものはあるのでしょうか」、安藤がいう。
「決算月に運用成績に応じた手当を計算、賞与支給時に加算する予定です。
ただし、運用成績によっては、ゼロ査定もあります」、姫宮がいう。

仮想トレード1位だった営業の安東が挙手したので、姫宮が質問を促した。
「日替わりで1名らしいけど、成績によって変わったりするのかしら」、安東がいう。
「今は考えていませんが、これからの検討課題とします」、姫宮がいう。
「残念だわ、これからの検討に期待してるわ」、安東がいう。

翌日から、「アルカディア」は本格的に始動した。
クジョウの指示の元、日替わりの1名が国内株のトレードを行った。
その年の冬季賞与で、7名全員に賞与を上回る手当が加算された。
その頃、米国ではサブプライムローンの延滞率が上昇、住宅の差押え件数が増加していた。

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