2023年6月22日木曜日

銘柄を明かさない理由R004 その名はアルカディア(前編)

第004話 その名はアルカディア(前編)

2007年になると、米国では、ある問題が起こっていた。
信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題だった。
同ローンは、クレジットカードの支払い延滞歴がある人などを対象としていた。
簡単に借りることができるが、その分、金利は高く設定されていた。

借りてから2年程度は低い固定金利だが、途中から大幅に金利が上がるようになっていた。
そのため、金利が上がってから、返済不能に陥る人が続出していた。
同ローンの債権を組み込んだ証券化商品の価格も急落していた。
また、購入した金融機関やファンドなどに多額の損失が発生していた。

同年6月には、米ベア・スターンズ傘下のヘッジファンドが経営難に陥っていた。
7月になると、同ローンの問題が、米株式市場に顕著な影響を及ぼし始めていた。
その影響は、国内の株式市場も避けることができなかった。
同年8月10日の日経平均株価は、前日の米株式市場の下落により、前日比406円安だった。

国内の銀行や証券会社は、同ローン関連の損失発生を相次いで発表した。
同年8月15日の東京証券取引所。
損失発生を発表した銀行株や証券株の多くが、年初来安値を更新した。
同日のニューヨーク証券取引所では、信用収縮への不安から、NYダウが下がっていた。

同年8月16日の東京証券取引所。
ヘッジファンドの換金売りなど、海外投資家主導で幅広い銘柄が売られた。
夏季休暇で売買高が少ないこともあり、引けにかけてやや戻したが、前日比2%安だった。
東証一部の値下がり銘柄数は、全体の85%を超えた。

同年8月17日の東京証券取引所。
外国為替市場では、円相場が急騰していた。
低金利で借りた円を高金利通貨で運用する「円借り取引」の解消が原因だった。
企業の収益悪化を懸念した売りが膨らみ、3営業日連続で年初来安値を更新した。

海外投資家が売りに転じたのを見て、国内機関投資家も先物に売りを出した。
保有株の損失を穴埋めするための先物の売りにより、現物株の下げが加速した。
日経平均株価は、前日比874円安の1万5,273円だった。
同年8月15~17日の3日間の下落幅は1,570円に達していた。

東京証券取引所における3日間の下落は、翌年のリーマン・ショックの予兆だった。
だが、このことに気づいていたのは、1人しかいなかった。
気づいていたのは、スイスのプライベートバンカー、スプリングベルだった。
スプリングベルは、同年9月には、来るべき暴落への備えを終えていた。

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