2022年2月12日土曜日

銘柄を明かさない理由R453 伝説の相場師(中編)

第453話 伝説の相場師(中編)

"謁見の間"の全員が、電動車いすの高齢男性を見ていた。
「あなたは大蔵大叔父の友達で、大叔父が"かっちゃん"と呼んでた人ですよね。
大叔父は体調がすぐれないので、町の病院に入院中ですよ。
今、取り込み中なので、お引き取りいただけますでしょうか」、宗矩がいう。

「大蔵が入院しとることは知っとる、先ほども見舞いに行ってきたとこじゃ。
ワシがここに来たのは、ひ孫の明から、淀屋の十三代目が来ると聞いたからじゃ」
高齢男性の左右の襖の陰から、淀屋初代本家十三代目のコウヘイと明が姿を現した。
「コウヘイ、来とったんか」、タエが驚いていう。

「誰から聞いたか知らんけど、抜け駆けはあかんやろ」、コウヘイがタエにいう。
「コウヘイ、その人は誰なんや」、タエがいう。
「淀屋初代本家九代目の淀屋勝利はん、略して"かっちゃん"。
"伝説の仕手戦"の買い方で、売り方の本間大蔵はんとは友達らしいわ」、コウヘイがいう。

「これコウヘイ、大蔵とは友達やない、無二の親友じゃ。
大蔵は、前妻を病で亡くし気落ちしていたワシを山形に呼んでくれたんじゃ。
山形で知りおうた大蔵の従妹と再婚するとき、仲人してくれたのも大蔵じゃ。
ひ孫の明に、両家の血が流れとるのも大蔵のおかげじゃ」、勝利がコウヘイにいう。

「"伝説の仕手戦"のせいで、両家の仲がようないと誤解されることになったようじゃ。
ワシか大蔵が、どこかで気づいて、仲裁しとけばよかったんじゃな。
それについては、当事者として申し訳ないと思うとる。
ここは年寄りの顔を立てて、怒りの矛先を納めてもらえんかのう」、勝利が全員にいう。

「なんや、そういうことかいな、ウチは止めてもかまへんで。
元はといえば、喧嘩売って来たのは向こうやさかいな」、タエがいう。
「ワテも異議なしや、昔は昔で今は今やしな。
年寄りのいうことは聞かなあかんやろ」、コウヘイがいう。

「国内最強の相場師は『酒田五法』を編み出したる本間宗久翁。
十八の誕生日の夜、枕元に現れし宗久翁から『本間の荒行』を命ぜられた。
その年の冬、『本間の荒行』を行い、本家十一代目当主となった。
最強の相場師一族は本間一族のみ、他の一族は認めん」、朱蘭がいう。

「十三の誕生日の夜、宗久翁は『本間の荒行』をするよう仰いました。
その年の冬、『本間の荒行』を行い、分家筆頭となりました。
"出羽の天狗"である本間宗矩も、他の一族は認めませぬ」、宗矩がいう。
朱蘭と宗矩以外の者に緊張が走り、"謁見の間"は再び静まり返った。

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