2022年2月4日金曜日

銘柄を明かさない理由R446 歓迎されざる者(前編)

第446話 歓迎されざる者(前編)

ヨドヤコウヘイが本間宗矩を訪れる日の午後。
山形駅を出た青のスタジャンにジーンズ姿のヨドヤコウヘイに声がかけられた。
「十三代目、お待ちしてました、お久しぶりです」
コウヘイが声がした方を見ると、短い髪金色に染めた白い作業服の若い男がいた。

「久しぶりやな、すまんな、今日は無理いうて」、コウヘイが若い男にいう。
「何を仰られます、本家がお越しとあらば、手足となるのが分家です。
すぐ先に車を停めていますので、どうぞ、こちらへ」、若い男がコウヘイを案内する。
2人が向かった駐車場には、旧式の白い軽トラックがあった。

「こんな車ですが、どうぞお乗りください」、若い男がいう。
「ワテには贅沢すぎる車やな」、助手席に乗り込みながら、コウヘイがいう。
「遠路はるばるお越しいただき、お疲れでしょう。
分家の淀屋明(あきら)が、お送りさせていただきます」、運転席に座った明がいう。

「忙しいところ、申し訳ないな、よろしく頼むわ」、コウヘイがいう。
「お任せください、本間家への最短ルートは頭に叩き込んでいます。
途中、乗り心地のよくない道もありますが、ご安心ください」
明はいうと、今日のために走行性能を向上させた軽トラックを発進させた。

「そういや、明んとこは、いつから山形におるんや」、コウヘイがいう。
「ひい爺さん(曽祖父)が、友達がいる山形に来てからです。
ひい爺さんは車椅子なんですが、今も元気ですよ」、明がいう。
そっか、年寄りは元気がなによりやさかいな」、コウヘイがいう。

驚異的な時間で、本間宗矩の実家近くに到着すると、明は農道に軽トラックを停めた。
「あそこに見える蔵のある家が、本間宗矩の実家です」、明が指差しながらいう。
「助かったわ、ほな、気いつけて帰りや」、コウヘイが軽トラックから降りた。
訪問理由は知りませんが、お一人で大丈夫ですか」、明が心配そうにいう。

「野暮用やさかい、心配せんでもええ」、コウヘイがいう。
「終わったら連絡ください、お迎えに来ます」、明がいう。
「何時に終わるかわからんからな、帰りはタクシー呼ぶわ」、コウヘイがいう。
「わかりました、くれぐれもお気をつけて」、明がいい、軽トラックは走り去った。

軽トラックが見えなくなると、コウヘイは着ていた青のスタジャンを裏返しに脱いだ。
スタジャンはリバーシブルの特注品で、表は青を基調とし、裏は白を基調としていた。
コウヘイは、白の背面に描かれた淀屋初代本家の家紋を、しっかりと目に焼き付けた。
行くか、コウヘイは家紋入りの白のスタジャンを羽織ると、本間宗矩の実家へ向かった。

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