2022年2月8日火曜日

銘柄を明かさない理由R449 謁見の間(前編)

第449話 謁見の間(前編)

十三代目、ご無事でいてください。
明が運転する軽トラックは、猛スピードで本間宗矩の実家に向かっていた。
軽トラックの前方にある横道から、1台の赤いセダンが出てきた。
明がブレーキをかけると、軽トラックは赤いセダンの手前で急停車した。

赤いセダンの運転席から、赤いトレーナーを着た大柄な角刈りの男が降りてきた。
「危ないな~ぶつかったら~ケガするな~」、角刈りの男が軽トラックに歩いてきた。
角刈りの男は、軽トラックの運転席に座る明を見ると、顔色が変わった。
明はセダンから目を離すことなく、角刈りの男に車を動かすよう、手を動かした。

「す、す、すぐに動かします」、角刈りの男はいうと、慌ててセダンに戻った。
セダンが道を開けると、明が運転する軽トラックは猛スピードで走り去った。
ま、まさか、こんなところで、伝説の走り屋といわれた鬼のアキラに会うとは。
セダンの運転席で、角刈りの男の震えはしばらく止まらなかった。

明が運転する軽トラックは、本間宗矩の実家へと続く農道に入った。
本間宗矩の実家前の農道に、コウヘイの姿はなかった。
十三代目が無事じゃなかったら、タダで済むと思うなよ。
明は本間宗矩の実家前で軽トラックを急停車させると、運転席から飛び降りた。

「おっ、来た来た、名残惜しいけど、そろそろ行くわ。
美味しいお茶とお菓子、おおきにやで、また大阪に遊びにきてや」
明が声がした方を見ると、高齢者たちに囲まれ、座っていた縁側から立つコウヘイがいた。
笑顔の高齢者たちに見送られながら、コウヘイが近づいてきた。

「十三代目、あの人たちは」、呆気にとられた明が、近くに来たコウヘイに聞く。
「宗矩の家族と近所の人やろ、道で待っとたら、何しとるんやって聞かれたんや。
人を待っとるっていうたら、お茶とお菓子をごちそうしてくれたんや。
大阪もやけど、山形もええ人が多いな」、コウヘイが愛嬌のある笑顔でいう。

さすが十三代目、全国の淀屋の頂点に立てるわけだ、明は思った。
「明、本間の本家に向かってくれるか、詳しいことは車の中で話すさかい」
コウヘイが助手席に乗り込みながらいう。
「承知しました」、明は運転席に乗り込むと、軽トラックを発進させた。

コウヘイは本家への道を指示すると、先にヨドヤを名乗る者が来ていたこと。
本間宗矩がヨドヤを名乗る者を本家に連れて行ったことを、明に話した。
まさか、いや、それはないな、明には思ったことがあったが、口には出さなかった。
「ホンマに、どこのどいつが来たんや、ええ迷惑やで」、コウヘイがいった。

0 件のコメント:

コメントを投稿