2022年2月7日月曜日

銘柄を明かさない理由R448 歓迎されざる者(後編)

第448話 歓迎されざる者(後編)

「どうぞ、こちらへ」、本間宗矩がいい、駐車場の奥にある和風住宅へ歩き始めた。
和風住宅の広い玄関先には、黒い和服姿の若い男と女がいた。
「念のため、簡単なボディチェックをさせていただきます」、宗矩がいう。
ヨドヤタエに若い女が、銀縁眼鏡のグレースーツ姿の鈴木には若い男が近寄った。

「ウチも男がええんやけどな」、タエがいったが、若い女はボディチェックを始めた。
この男、見た目は華奢だが、かなり鍛えているな。
武道の心得があるのか、もしも有段者なら要注意だな。
鈴木のボディチェックをしながら若い男は思った。

「気がすんだか」、鈴木が腰をかがめてボディチェックしている若い男にいう。
「お、終わりました」、若い男は鈴木から離れた。
「ボディチェックが終わったので、どうぞ中へお入りください」
宗矩がいうと、黒の玄関引戸が音もなく引かれた。

「自動かいな、洒落た引戸やな」、タエがいいながら中へ入ると、鈴木が続いた。
玄関の床は黒の石貼り、壁は白の漆喰塗りで、前面のガラスからは中庭が見えた。
「右手の通路を進むと、左側に"控えの間"があるので、そちらでお待ちください」
玄関の外にいる宗矩がいうと、玄関引戸が音もなく閉じられた。

「ほな、行こか」、タエが"控えの間"に向かうと、鈴木も後に従った。
門から玄関までの監視カメラが8台、玄関にも2台、よほど敵が多いのか。
"控えの間"に向かう途中も、鈴木は周囲を注意深く観察していた。
「あったで」、"控えの間"と書かれた部屋を見つけたタエがいった。

"控えの間"の入り口には戸がなく、床も黒の石貼りの続きだった。
室内は黒の漆喰塗りで、家具は黒の机と4脚の椅子だけだった。
中庭に面した壁は、玄関と同じく一面ガラス張りになっていた。
「殺風景な部屋やな」、タエが椅子に座りながらいう。

室内の気配がわかるよう、あえて戸を設置していないのか。
外から室内の様子は丸見えで、部屋にも監視カメラが2台。
タエ様もタバコを吸おうとされないので、緊張されているのかもしれない。
鈴木は椅子に座ることなく、銀縁眼鏡の奥の目を光らせ、警戒を続けていた。

玄関先には、宗矩と黒い和服姿の若い男と女がいた。
「両名とも、"控えの間"に入りました」、スマホを見ていた若い男がいう。
「歓迎されざる者が出てくるまで、見知らぬ者は中に入れるな」、宗矩がいう。
「かしこまりました」、若い男と女が答えた。

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