2022年2月5日土曜日

銘柄を明かさない理由R447 歓迎されざる者(中編)

第447話 歓迎されざる者(中編)

本間宗矩の実家には門や塀がなく、木や植栽が塀の代わりだった。
敷地の中には、瓦葺きで真壁造りの母屋と大きな蔵があった。
コウヘイは玄関を見通せる位置に立ったが、敷地に人がいる気配はなかった。
コウヘイは玄関先まで進むと、玄関引戸の横にある呼び鈴を押した。

呼び鈴を押すと、玄関引戸のガラス越しに、人がやってくるのがわかった。
「どちらさん」、玄関引戸を開いた高齢の女性がいう。
「宗矩はんと約束しとるヨドヤです、宗矩はんはおってでっか」、コウヘイがいう。
「ヨドヤさんなら、先ほど来られましたよ」、高齢の女性がいう。

「いや、ワテがヨドヤです」、コウヘイがいう。
「先ほど来られた方も、同じようなこと言ってましたよ」、高齢の女性がいう。
「ここに来るヨドヤは、ワテだけなんやけど」、コウヘイがいう。
「先ほど来られた方も、同じようなこと言ってましたよ」、高齢の女性が繰り返しいう。

ワテをからかっとるんか、あかん、落ち着け、何かの作戦かもしれへん。
ここは冷静に対処せなあかん、コウヘイは質問することにした。
「先ほど来たヨドヤは、どこにいったんやろか」、コウヘイがいう。
宗矩と一緒に本家に行きましたけど」、高齢の女性がいう。

「本家ちゅうのは、どこにあるんでっしゃろ」、コウヘイがいう。
「本家はあの山を越えたところです」、高齢の女性が山を指さしていう。
「こっからやったら、どれくらいかかりまっか」、コウヘイがいう。
「歩きなら、そうやね、1時間もあれば」、高齢の女性がいう。

「おおきに」、コウヘイは礼をいい、敷地の外へ出た。
コウヘイはスマホを取り出すと、明に電話をかけ、明が出るといった。
「ワテや、わるいんやけど、すぐに引き返して、本間宗矩の実家に来てくれ」
いったい、どこのどいつが来たんや、通話を終えたコウヘイは思った。

同じ頃、大きな門構えのある本間本家の敷地に、1台の黒塗りの高級車が入って来た。
高級車は、敷地内にある広い駐車場に入ると停まった。
高級車が停まると、助手席から神楽笛を手にした男が降り立った。
神楽笛を手にした男は、黒髪が肩まで伸びた黒スーツ姿の本間宗矩だった。

運転席から降り立った銀縁眼鏡のグレースーツを着た男が、後部座席のドアを開けた。
後部座席から、高級そうな和服姿の年配の女性が降り立った。
「ほな、案内してもらおか」、年配の女性が本間宗矩を見ていう。
年配の女性は、淀屋二代目本家の「難波の女帝」こと、ヨドヤタエだった。

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