2022年2月11日金曜日

銘柄を明かさない理由R452 伝説の相場師(前編)

第452話 伝説の相場師(前編)

1952年から1953年にかけて東京証券取引所で行われた"伝説の仕手戦"があった。
東の本間が売り方、西の淀屋が買い方の仕手戦だった。
売り方の主体は、"出羽の天狗"と呼ばれていた本間大蔵が率いる本間商会。
追随した売り方には、大手証券会社の山井証券、栄証券などがいた。

買い方の主体は、淀屋初代本家九代目の淀屋勝利が率いる淀三証券。
追随した買い方には、"鬼神"と呼ばれていた独眼竜の犬神が率いる兜証券などがいた。
3銘柄を対象とした大規模な仕手戦は、半年近くに及ぶ激戦となった。
一時は売り方が劣勢となったが、最終的には売り方の勝利に終わった。

本間本家にある"謁見の間"。
長き時を経て、本間と淀屋の両家が対峙していた。
本間側は、本家十一代目当主の本間朱蘭と、"出羽の天狗"こと本間宗矩。
淀屋側は、二代目本家のヨドヤタエと、二代目本家に代々仕える鈴木だった。

「ウチやコウヘイのことを、丑田の倅(せがれ)に調べるよう、いうたらしいな。
何が目的や、答えによってはタダじゃすまさへんで」、座ったままのタエがいう。
「知れたこと、淀屋は長きにわたる因縁の相手なので調べさせてもろうた」
扇子で口元を隠した朱蘭が、目を細めたままいう。

「はあ、長きにわたる因縁って、どんな因縁や」、タエがいう。
「かって、両家の雄が、戦後、間もない東京証券取引所で争いました。
後に"伝説の仕手戦"といわれた本間大蔵と淀屋勝利の激戦は、半年近くに及びました。
最後は本間が勝利しましたが、以来、両家は敵対関係にあります」、宗矩がいう。

「知らんがな、ウチが生まれる前の話やろ、誰からも聞いたことないわ。
そっか、本間が勝ったっていうけど、実は負けとったんやな。
それなら納得いくわ、負け犬のリベンジちゅうことやな。
別にこっちはかまへんで、また負け犬にしたるさかい」、タエがいう。

扇子を持つ手に力が入ったのか、朱蘭が口元を隠していた扇子が音を立てて壊れた。
「さすが長きにわたる因縁の相手、ここまで腹が立った相手は初めてじゃ。
よかろう、そこまでいうなら、完膚なきまでに叩き潰してくれるわ」
朱蘭が壊れた扇子を投げ捨てると、鬼女のような形相でいう。

朱蘭以外の者に緊張が走り、"謁見の間"は静まり返った。
「何をくだらん話をしとるんじゃ」、鈴木の背後の襖の外から声がした。
声を発した者が、白い杖を使い、襖を開いた。
襖が開くと、電動車いすに乗った白髪で白のスーツ姿の高齢男性がいた。

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