2022年2月2日水曜日

銘柄を明かさない理由R444 先手必勝(中編)

第444話 先手必勝(中編)

ヨドヤコウヘイが本間宗矩を訪れる日の3日前。
大阪難波のタワーマンションにあるヨドヤコウヘイの自宅
コウヘイの自宅は、「YLコンサルタント」のオフィスも兼ねていた。
コウヘイは、朝から伊庭精機株の値動きを監視していた。

「どうやら、勝負はついたみたいやな」、コウヘイがいう。
「買い方と売り方、どちらが勝ったのでしょうか」、取締役社長の佐々木がいう。
「売り方の勝ちやな、ここから買い上がることはできへんわ」、コウヘイがいう。
「タエ様の敗けということですね」、佐々木が残念そうにいう。

「売り方の丑田春樹が株主の会社に仕掛けて、勝てるわけないわな。
おばはんには同情するけど、仕掛ける先を間違えたらあかんわ」、コウヘイがいう。
「ところで、本当に本間宗矩にお会いになるのですか」、佐々木がいう。
「何をしてくるのか待ってられへんしな、先手必勝でいくわ」、コウヘイがいう。

「どうしても会われるのなら反対しませんが、くれぐれもお気をつけて」、佐々木がいう。
「土日は東京で人と会わなあかんので、夕方には大阪を出るわ。
そや、忘れんうちにこれ渡しとくわ」
コウヘイが引き出しからカードキーを取り出すと、佐々木に渡した。

「これは」、カードキーを受け取った佐々木がいう。
「メインバンクにある貸金庫のカードキーや、暗証番号は後で教えるわ。
貸金庫には、会社の重要書類を保管しとるさかいな」、コウヘイがいう。
「縁起でもない」、佐々木がカードキーをコウヘイに突き返していう。

「何もないとは思うで、そやけど、万が一ってこともあるやろ」、コウヘイがいう。
「私は地銀時代から、数えきれないほどの融資審査を行ってきました。
株を見る目はありませんが、人を見る目はあると思っています。
ヨドヤ様はそんな弱気になる人ではないはずです」、席を立った佐々木がいう。

「融通の利けへん社長やな、受け取らへんのやったら、無理にとはいわん。
元の引き出しに戻しとくわ」、コウヘイはカードキーを引き出しに戻した。
「今から独り言いうけど、聞きとうなかったら聞かんでもええからな。
暗証番号は社長の娘の誕生日にしたような気がするな」、コウヘイがいう。

「近頃、耳が遠くなったので、何を仰られたのか、聞こえませんでした。
YLコンサルタントの社長として、ヨドヤコウヘイに命じます。
出張先での仕事が終わったら、速やかに帰社するように」、佐々木がいう。
「了解しました」、勢いよく席を立ったコウヘイは、敬礼しながら佐々木に答えた。

0 件のコメント:

コメントを投稿