2022年2月10日木曜日

銘柄を明かさない理由R451 謁見の間(後編)

第451話 謁見の間(後編)

「いつまで待たせるつもりなんや」、本間本家の"控えの間"でタエがいう。
「コウヘイ様じゃなく、タエ様が来たので、準備があるのでしょう」、鈴木がいう。
「コウヘイんとこの佐々木が連絡くれて、ホンマよかったわ。
連絡なかったら、丑田に指示したのが、本間やって知らんままやからな」、タエがいう。

「確かに、佐々木様が教えてくれなければ、知らないままでした」、鈴木がいう。
「淀屋に喧嘩売るとは、ええ度胸しとるわ、早う顔が見たいもんや」、タエがいう。
「コウヘイ様に、ここにいることを連絡した方がよろしいのでは」、鈴木がいう。
「連絡せんでも来るやろ、コウヘイは初代本家の十三代目やさかいな」、タエがいう。

「お待たせしました、当主がお会いになるとのことです」
2人が声がした"控えの間"の入り口を見ると、黒い和服の高齢女性がいた。
「やっとかいな」、タエが椅子から立ち上がり、高齢女性の元へ向かった。
「どうぞ、こちらへ」、高齢女性が奥へ歩き始め、タエが続いた。

警戒していたにも関わらず、全く気配を感じさせなかった。
驚きを悟られないようにしながら、鈴木もタエの後に続いた。
「このドアから、外に出ていただくと、建物がございます。
玄関から入って、3部屋目の和室でお待ちください」、高齢女性がいう。

タエと鈴木が、ドアから外に出ると、築100年以上と思われる平屋の木造家屋があった。
平屋の玄関引戸を開けて中に入ると、タエと鈴木は3部屋目の和室に進んだ。
3部屋目の和室は、正面が襖で、両側の障子からは光が差し込んでいた。
「待っとけっていうけど、座布団もあらへんやんか」、タエがいう。

「私たちを、その程度にしか思っていないということでしょう」、鈴木がいう。
「あ~しんど、立ってられへんわ」、タエは畳に座ると、両手をついて足を伸ばした。
タエが畳に座ると、神楽笛の優雅な音色が聴こえてきた。
神楽笛の優雅な音色が流れる中、正面の襖が、音を立てることなく、左右に開かれた。

開かれた襖の奥には、豪華な朱色の椅子に坐った艶やかな和服姿の1人の女性がいた。
年は若く、化粧をしていても、整った顔立ちであることがわかる女性だった。
女性は、手に持っていた朱色の扇子を軽く振って開いた。
扇子で口元を隠した女性は、足を伸ばしたタエを見ると、目を細めた。

「淀屋は客先での礼儀も知らぬとみえる」、女性がいう。
「本間は客をもてなす礼儀を知らんようやな、あんたの名前は」、タエがいう。
「そのお方は、本間本家十一代目当主の本間朱蘭様」
神楽笛を吹くのをやめた本間宗矩が、障子を開けて"謁見の間"に入ってくるといった。

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