2022年2月9日水曜日

銘柄を明かさない理由R450 謁見の間(中編)

第450話 謁見の間(中編)

「大阪は、小さい頃から、ボケとツッコミの練習をさせられるって話をしたんや。
あれ取ってくれっていわれるやろ、けど、すぐに渡したらあかんねん。
相手が取って欲しいのと違うもんを取って、ボケなあかんねん。
で、同じことされたら、それはちゃうやろってツッコむんや。

あと、大阪の公立中学校では、来年からお笑いの授業が始まるっていうたんや。
そしたら、皆がどんな授業するんですかって聞いてくんねん」、助手席のコウヘイがいう。
「本当にお笑いの授業が始まるんですか」、明が軽トラックを運転しながらいう。
「冗談に決まっとるがなっていうといたけど、ウケたで」、コウヘイがいう。

明が軽トラックを減速すると、路肩に寄せて停めた。
「どないしたんや、そこの三叉路を左やで」、コウヘイがいう。
「あれが気になったので停めました」、明が左の道の脇にある看板を指さしていう。
看板には「私道につき関係者以外の立入りを禁ず」とあった。

「関係者以外は立ち入り禁止やろ、ワテらには関係あらへん」、コウヘイがいう。
「承知しました」、明は軽トラックを発進させると左の道へ入った。
しばらく道なりに進むと、正面に大きな瓦屋根の門があった。
軽トラックが近づくと、左右に門が開き始めた。

明は減速することなく、門の中へ軽トラックを直進させた。
門を入って道なりに進むと、黒塗りの高級車が駐車してある広い駐車場に出た。
明は駐車場の空いている区画に、軽トラックを停めた。
「ほな、行こか」、コウヘイは助手席から降り、奥の和風住宅に向かった。

明も運転席を降りると、コウヘイの後に続いた。
和風住宅の広い玄関先には、黒い和服姿の若い男と女がいた。
「宗矩はんがこちらにおるって聞いたんやけど、入れてもらえるか」、コウヘイがいう。
「見知らぬ者は中に入れるなといわれております」、若い男がいう。

「明、ちょっと、こっち来い」、コウヘイが玄関先から離れながらいう。
「顔見たらわかるけど、あの男と女は、頭の固いクソ真面目なタイプや。
明があの2人を玄関先から離して、ワテが中に入る作戦はどうや」、コウヘイがいう。
「承知しました、うまいこといって、2人を玄関先から引き離します」、明がいう。

あの2人はバカなのか、絶対、中には入れないからな。
距離が遠くないので、コウヘイと明の声が聞こえている、若い男と女は思った。
「あの2人はワシの知り合いじゃ、中へ入れてやってくれんか」
コウヘイと明を見ている若い男と女に声がかけられた。

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