第054話 アルカディアの戦術(後編)
8時00分になると、アルカディアで朝礼が始まった。
クジョウと楢崎は、モニターが埋め込まれた壁を背にして立っていた。
クジョウと楢崎の前には、各自の端末の前に立っているアルカディアメンバー7人がいた。
最初に、地震で亡くなった方に対して、一分間の黙禱が行われた。
「本日からの相場は、売り圧力が強い相場になる可能性が高い。
今回の基本スタンスは買いだが、買うだけでは芸がない。
よって、買って少しでも上がれば売るトレードを繰り返すことにする。
そのための改修を行ったので、情報システムから説明してもらう」、クジョウがいう。
「情報システムの楢崎だ、皆が使っているアレスの改修内容について説明する。
これまでのアレスは各端末が独立しており、端末の数だけ取引できた。
取引の基本操作は、注文の入力、入力内容の確認、発注だった。
今回の改修では、入力内容の確認をなくし、注文の入力と発注だけにした。
この場合、誤った入力内容を発注してしまう、いわゆる誤発注が生じる可能性がある。
そこで端末を2台ずつ連携させ、2人がペアになって操作できるようにした。
担当Aが注文を入力、担当Bが入力内容を確認してから発注するという流れだ。
これにより、操作性が向上、誤発注もなくせると考えている。
質問がある人がいたら、挙手して欲しい」、楢崎がいう。
神崎がおそるおそる挙手したので、楢崎が「どうぞ」といい、質問を促した。
「前から疑問だったんですが、アレスの意味を教えていただけますか」、神崎がいう。
「そ、そこか、ギリシャ神話の戦いの神、軍神アレスだよ」、楢崎が答える。
しばらく待ったが、他に挙手する者がいないので、クジョウが口を開いた。
「アレスを起動すると、連携している端末がわかるレイアウトが表示される。
連携している端末を確認したら、ペアになった相手と打合せして欲しい。
では、アレスを起動してもらう」
楢崎がタブレットに、アレスを起動させるコードを入力した。
「アレス起動まで残り120秒」、天井のスピーカーから電子音声が流れた。
「アレス起動まで残り60秒」、「アレス起動まで残り30秒」、「アレス起動完了」
全ての端末画面に、連携している端末がわかるレイアウトが表示された。
「本日からの相場は、売り圧力が強い相場になる可能性が高い。
アルカディアは、買って少しでも上がれば売るトレードを繰り返す。
自分たちが社内、業界、いや世界で一番、偉いと思え、以上」
クジョウがいうと、ペアになった相手との打合せが始まった。
0 件のコメント:
コメントを投稿