第049話 災厄を司る神(前編)
精神世界にある高天原の神殿では、三貴神による御前会議が行われていた。
円卓には、羽衣をまとった最高神である天照大神(アマテラス)。
天照大神の弟神で夜を統べる月読命(ツクヨミ)。
同じく天照大神の弟神で武具を装着した建速須佐之男命(スサノオ)がいた。
「禍津日神(マガツカヒノカミ)が現れたらしいな」、アマテラスがいう。
「昨夜、中部地方で目撃したとの報告が上がっております」、ツクヨミがいう。
「厄介なところに現れおったな」、スサノオがいう。
「ツクヨミの予測を述べよ」、アマテラスがいう。
「禍津日神は、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の復活を図るはずです。
八岐大蛇は、八つの頭を切断し、全国各地に封印しております。
復活させるため、各地にある頭を集めて回るでしょう。
頭が揃った地で、復活の儀を執り行うものと思われます」、ツクヨミがいう。
「スサノオの予測を述べよ」、アマテラスがいう。
「中部地方に現れたのであれば、北上してから南下するルート。
あるいは、南下してから北上するルートが考えられまする。
復活の地は、前者の場合は九州、後者の場合は東北になろうかと」、スサノオがいう。
「ツクヨミよ、被害の予測を述べよ」、アマテラスがいう。
「復活の地が九州であった場合、人的被害は三万人ほどになると思われます。
東北であった場合も、同じく三万人ほどになると思われます。
これらは最速で鎮めた場合で、更に増える可能性があります」、ツクヨミがいう。
「八岐大蛇が復活するまで、そんなに時は残されておらん。
ツクヨミは各地の神柱とともに、引き続き禍津日神の情報収集に当たれ。
スサノオはいつでも出動できるよう、神兵とともに待機せよ」、アマテラスがいう。
「承知いたしました」、ツクヨミとスサノオがいい、御前会議は終わった。
禍津日神は、日本神話に登場する神。
禍は「災厄」、津は「の」、日は「神霊」で、「災厄の神霊」という意味になる。
アマテラス、ツクヨミ、スサノオ等の父神である伊邪那岐命(イザナギ)。
黄泉から帰ったイザナギが、禊を行って黄泉の穢れを祓った時に生まれた神とされている。
禍津日神のように黄泉の穢れから生まれた神は、災厄を司る神とされている。
だが、祀ることで災厄から逃れられるとし、厄除けの守護神としても信仰されている。
復古神道においても異なる見解があり、本居宣長は禍津日神を悪神だと考えた。
一方、平田篤胤は禍津日神を善神だとしている。
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