第031話 師との出会い(前編)
1965(昭和40)年、東北地方の山村。
貧しい農家の三男であるムラタコウゾウは畑仕事をしていた。
両親は親戚の農家の手伝いにいっており、一人で畑仕事をしていた。
太陽の位置を確認すると、昼になっていた。
コウゾウを手は止めると、荷物がある木陰に向かった。
木の枝に吊るしておいた袋から、弁当と水筒を取り出すと、地べたに座った。
母親が作ってくれた弁当は、いつも通りの握り飯と漬物だった。
食べ終えたコウゾウは両手を頭の後ろで組むと、仰向けになった。
晴れた空を見ながら、自分の将来について考え始めた。
コウゾウには年の離れた兄と姉がいる。
コウゾウが小学生のときに、中学を卒業した兄は都会へ働きに出た。
翌年、中学を卒業した姉も都会へ働きに出た。
働きに出てから、消息を知らせる手紙や葉書が来ていた。
ところが次第に間隔が長くなり、コウゾウが中学を卒業するころには来なくなった。
コウゾウは中学を卒業すると、実家の畑仕事を手伝った。
畑仕事を手伝うことにしたのは、元気のない両親のことを思ってのことだった。
畑仕事を手伝いだしてから、1年になろうとしていた。
最初の頃は、兄と姉は仕事が忙しくて連絡できないのだと思っていた。
だが、自分が働きだしてわかったが、いくら忙しくても連絡くらいはできる。
最近は、両親ともども見捨てられたのではないかと思い始めていた。
自分はこのまま畑仕事を手伝いながら、両親と暮らすのか。
それとも、兄や姉のように、両親を残して都会へ働きにでるべきか。
こんな田舎で働くより、都会で働きたい。
だが、元気のない両親を見ていると、言い出せなかった。
ある日、コウゾウは父親と畑仕事の間に、横並びに座って休憩していた。
最近は家でもそうだが、会話が少なくなっていた。
父親は懐から取り出したキセルに煙草を詰めると、マッチで火を点けた。
美味そうに一服した父親は前を見たまま、コウゾウにいった。
「都会に出たいか」
コウゾウは何も答えることができなかった。
「都会に出たいと思うんなら、出るがええ」
父親はいうと、キセルをふかした。
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