第051話 災厄を司る神(後編)
スサノオと神兵により、禍津日神が復活させた八岐大蛇は鎮められた。
切り落とされた八つの頭は、再び、全国各地に封印された。
姿を消した禍津日神は、黄泉へ帰ったものと思われた。
甚大な被害を受けた東北では、復興への取り組みが始まっていた。
精神世界にある高天原の神殿。
円卓には、羽衣をまとった最高神であるアマテラス。
アマテラスの弟神で夜を統べるツクヨミ。
同じくアマテラスの弟神で武具を装着したスサノオの三貴神がいた。
「此度はご苦労であった、次の災厄に備えて休まれよ」、アマテラスがいう。
「一つよろしいか、姉上」、スサノオがいう。
「申してみよ」、アマテラスがいう。
「我々の力をもってすれば、禍津日神を黄泉に閉じ込められるのでは」、スサノオがいう。
「ツクヨミはどう思う」、アマテラスがいう。
「スサノオのいうことに一理あるかと思います」、ツクヨミがいう。
「禍津日神を黄泉に閉じ込めてはならん」
アマテラスはいうと、天岩戸に閉じ籠ったときに見た夢の話を始めた。
乱暴狼藉をはたらいていたスサノオに怒ったアマテラスは天岩戸に閉じ籠った。
その後、他の神々によって、天岩戸から引きずり出された。
だが、夢の中のアマテラスは、スサノオを黄泉に送り、黄泉から他へ通ずる門を閉じた。
そのため、黄泉にいた禍津日神も出られなくなった。
人間世界では、禍津日神による災厄が起こらなくなった。
資源の採掘が進み、科学技術は発展、人々の暮らしは豊かになった。
だが、さらなる豊かさを求める人間の欲望は大きくなり続けた。
やがて、争いに強力な科学兵器が使用され、人間世界は無の世界となった。
話を聞いたツクヨミとスサノオは黙り込んでしまった。
「禍津日神は、人間世界に災厄という恐怖を与えておる。
恐怖が与えられなければ、人間の欲望は大きくなり続け、無の世界となる。
禍津日神を黄泉に閉じ込めてはならん」、アマテラスはいった。
ツクヨミとスサノオがいなくなった円卓で、アマテラスは夢の続きを思い返していた。
人間世界が無の世界になったあと、神々の権力争いが起こった。
神々は次々に消滅していき、精神世界も無の世界となった。
恐怖と欲望により世界の均衡は保たれている、アマテラスは席を立つと自室へ向かった。
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