2024年11月22日金曜日

【小説】銘柄を明かさない理由R041 天使の笑顔を持つ男(中編)

第041話 天使の笑顔を持つ男(中編)

2009(平成21)年4月、関東近郊の地方銀行の店内。
アマネオトヤは貸金庫室の前で立ち止まると、ドアの横のカードリーダーに目をやった。
3年前と同じであることを確認すると、ジーンズのポケットから財布を取り出した。
財布を開いて、カードを取り出すと、ドアの横にあるカードリーダーに通した。

ドアロックが解除される音がしたので、ドアを開いて貸金庫室に入室した。
ドアの傍には机と椅子があり、正面と左右の壁一面に貸金庫があった。
ドアが閉まると、室内にあるカードリーダーにカードを通した。
カードを通した後、下のテンキー画面に、妹の由香の誕生日を入力した。

入力すると、左の壁にある貸金庫の緑色のライトが点灯した。
ライトが点灯した貸金庫に近づくと、ポケットから鍵を取り出した。
鍵穴に鍵を入れて回すと、扉を開いた。
A4のファイルより一回り大きな鉄製の箱を取り出すと、机に向かった。

机に箱を置き、椅子を引いて座ると、箱の蓋を開けて中の物を取り出し始めた。
最初に取り出したのは、自宅のあった土地の権利証が入った封筒だった。
父親の俊彦の名義だった土地は、今はオトヤの名義になっていた。
次に取り出したのは、その土地の管理を委託した不動産会社との契約書だった。

契約者はオトヤだが、未成年だったため、親権者として祖父の名前があった。
不動産会社のアドバイスもあり、土地はコインパーキングにしていた。
管理費を除いた収益が、不動産会社からオトヤの口座に振り込まれるようにしていた。
次に取り出したのは、アマネオトヤ名義の預金通帳と印鑑が入った封筒だった。

通帳には、俊彦が加入していた生命保険の保険金が入金されていた。
コインパーキングの収益も振り込まれるようにしていた。
口座残高は1,000万円を超えているはずだった。
最後に取り出したのは、額に入った家族写真だった。

写真には、父親の俊彦と母親の幸恵との間に、5歳のオトヤと3歳の由香がいた。
七五三の記念に、街の写真屋のスタジオで撮ってもらった写真だった。
4年前の火事で自宅が全焼したため、思い出の品は全て焼けてしまっていた。
写真は、写真屋のショーウインドウに見本として飾られていたものだった。

写真を見ていると、家族との楽しかった出来事が思い出された。
しばらく、写真を見た後、預金通帳と印鑑の入った封筒以外は箱に戻した。
蓋を閉じた箱を貸金庫に入れると、扉を施錠した。
机に置いていた封筒を手にすると、今は亡き家族の写真がある貸金庫室を後にした。

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