第050話 災厄を司る神(中編)
中部地方に現れた禍津日神は、八岐大蛇の頭を集めるべく南下した。
九州南端に到達すると反転、封印されていた頭を集めながら北上した。
東北の地で頭が揃うと、復活の儀を執り行い、八岐大蛇を復活させた。
前回の復活から、実に千年ぶりとなる復活だった。
精神世界にある高天原の神殿。
羽衣をまとった最高神であるアマテラスが姿を現した。
円卓には、アマテラスの弟神で夜を統べるツクヨミがいた。
「現在の状況を報告せよ」、席に着いたアマテラスがいう。
「本日正午過ぎ、東北三陸沖で八岐大蛇の復活を確認。
スサノオが神兵を率いて、現地に向かいました。
八岐大蛇の包囲が完了すると同時に地殻変動が発生。
現在、八岐大蛇を鎮めるべく、交戦中とのこと」、ツクヨミがいう。
「禍津日神の現在位置はどうなっておる」、アマテラスがいう。
「確認できておりません、すでに東北を離れた可能性があります」、ツクヨミがいう。
「引き続き、探索を続けよ」、アマテラスがいう。
「承知いたしました」、ツクヨミがいう。
同時刻、東北三陸沖の地下空間。
暴れまわる八岐大蛇は、スサノオが率いる神剣や神槍を持つ神兵に取り囲まれていた。
八岐大蛇の近くには、戦闘で負傷した多くの神兵が倒れていた。
「次こそ決めるぞ、皆の者、用意はいいか」、神剣を掲げたスサノオが叫ぶ。
「動きは見切ったので、お任せいただこう」、取り囲む神兵の中から声がした。
日本刀のような神剣を持った四人の神兵が前に出てきた。
スサノオや他の神兵が見守る中、四人はゆっくりと八岐大蛇を取り囲んだ。
神剣を八相に構えた四人が間合いを詰め始めると、それぞれに二つの頭が襲い掛かった。
誰もが避けられないと思った瞬間、四人は神速の動きで神剣を振るった。
頭を引いた八岐大蛇の動きが止まると、次々と頭が落ち始めた。
最後の頭が落ちると、八岐大蛇の胴体は地響きをたてて崩れ落ちた。
見守っていた神兵たちから歓喜の声が上がった。
八岐大蛇を倒した四人の神兵は、生前に剣の道を究めた剣術家たちだった。
四人の名は「剣聖」と称えられた上泉信綱、信綱から奥義を授かった柳生宗厳。
秘技「一之太刀」の使い手である塚原卜伝、二天一流兵法の開祖である宮本武蔵。
四人の剣術家は、歓喜の声を上げる神兵たちを見ると、満足げな笑みを浮かべた。
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