第043話 神の血族(前編)
2009(平成21)年4月、東京都内にあるワンルームマンション。
帰宅したアマネオトヤは、貸金庫から持って帰った封筒から預金通帳を取り出した。
口座残高を確認すると、思っていた通り、1,000万円を超えていた。
預金通帳を封筒に戻すと、机の引き出しにしまった。
封筒をしまうと、買ってきたハンバーガーセットを食べた。
食べ終わると、午前中に参加した大学の入学説明会でもらった書類に目を通した。
明日の講義に必要なテキストとノートをカバンに入れた。
用意が終わると、浴室へ行き、シャワーを浴びた。
ドライヤーを使って髪を乾かしていると、机の上に出したままのお守りが目に入った。
しまっておかないと、そう思い開けた引き出しには御朱印帳が入っていた。
御朱印帳の上にお守りを置くと、引き出しを閉じた。
髪を乾かしながら、お守りや御朱印帳を買うきっかけとなった出来事を思い出していた。
2008(平成20)年6月、三重県にある祖父母の家。
高校3年のオトヤは、東京の大学に進学するため、受験勉強をしていた。
先日の模擬試験の結果は合格ラインを上回っていたが、油断大敵と考えていた。
その日のノルマが終わると、電気を消してベッドに入った。
目の前の霧が晴れてくると、神社が現れた。
目をこらすと、覆いかぶさるようにして賽銭箱を覗いている長髪の男がいた。
長髪の男は、日本史の教科書に出てくる弥生人のような恰好をしていた。
賽銭泥棒かと思い見ていると、視線を感じたのか、男が顔を上げてオトヤを見た。
「ち、ちがう、いくら入っておるか、確認してたんじゃ」、長髪の男がいう。
盗む気だから、いくら入っているか確認してたんだろ、オトヤは思った。
「だから、ちがうっていっておろうが、確認じゃ、確認」、長髪の男がいう。
オトヤは長髪の男が、自分が思ったことを読み取っていることに気づいた。
どうして自分が思ったことがわかるんだ、オトヤは思った。
「神にとっては当たり前のこと」、長髪の男がいう。
神?神が賽銭泥棒してるのか、オトヤは思った。
「だ~か~ら~ちがうっていっておろうが」、長髪の男がいう。
神なら賽銭を確認する必要はないだろう、オトヤは思った。
「景気がよくないのか、参拝する人が少なくなってのう」、長髪の男がいう。
参拝する人が少ないってことは貧乏神なのか、オトヤは思った。
「誰が貧乏神じゃ、ご先祖様の天津日子根命(アマツヒコネ)じゃ」、長髪の男がいう。
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