2024年11月30日土曜日

【小説】銘柄を明かさない理由R053 アルカディアの戦術(中編)

第053話 アルカディアの戦術(中編)

2011(平成23)年3月12日土曜日、朝の東京駅。
大勢の人で混雑する構内に、地下のホームから上がってきたクジョウレイコがいた。
サングラスにビジネススーツ姿のクジョウは、新幹線の切符売り場に目をやった。
切符売り場には、切符を買い求める長蛇の列ができていた。

あれだけの行列だと、買うまで3時間ってところか。
ふと、改札の外にある自動券売機は空いているのではと思った。
クジョウが改札に行くと、改札は出入り自由で、外にある自動券売機は空いていた。
やはり、クジョウは改札の外に出ると、新幹線の乗車券と特急券を買った。

2時間後、名古屋駅の新幹線ホームに降り立ったクジョウは改札へ向かった。
改札を出たクジョウは、市内の商業施設などを見て回った。
夕方、クジョウは名古屋駅から東京行の新幹線に乗車した。
思った通りだった、クジョウは座席のシートを倒すと目を閉じた。

メディアは、東北の被災地のことしか報じていない。
都内では情報が不足しており、食料品や生活必需品の買い溜めが起きている。
だが、名古屋では買い溜めは起きていなかった。
クジョウは、このことが週明けの相場に与える影響について考え始めた。

2011(平成23)年3月14日月曜日、東京都中央区日本橋の愛誠証券。
早朝出勤したクジョウがアルカディアのドアを開けると、打合せコーナーに楢崎がいた。
並べた椅子の上で寝ていた楢崎は起き上がると、大きく背伸びした。
「家からだと間に合わないと思ったんで、昨夜から泊ってた」、楢崎がいう。

「頼んでいたことは間に合ったか」、クジョウがいう。
「休日出勤して何とか間に合わせた」、楢崎がいう。
「さすがだな、感謝する」、クジョウがいう。
「礼は仕上がりを確認してからいってくれ」、楢崎がいう。

自席のクジョウが、楢崎から改修内容の説明を受けていると、内線が鳴った。
内線を取ったクジョウは、報告を聞いた後に「わかった」といい通話を終えた。
「誰からだい」、楢崎が聞くと、クジョウが答えた。
「姫宮からだ、アルカディアメンバーがホテルを出たので、20分ほどで来るらしい」

「えーっ、みんな前泊してたのか」、楢崎がいう。
「金曜に姫宮に手配してもらっていた」、クジョウがいう。
「何だよ、それ、俺の分も手配しといてくれよ」、楢崎がいう。
「女性専用ルームしか空きがなかったらしい」、クジョウがいった。

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