2024年11月11日月曜日

【小説】銘柄を明かさない理由R033 師との出会い(後編)

第033話 師との出会い(後編)

1971(昭和46)年の秋、コウゾウは夜行バスで大阪に向かっていた。
大阪に向かっていたのは、是川銀蔵という人物に会うためだった。
ジツオウジの手紙には、人生を変えたいなら是川銀蔵を訪ねるよう書かれていた。
コウゾウは会社の休みを取り、手紙に書いてあった住所を頼りに大阪へ向かっていた。

早朝、大阪駅に着くと、是川銀蔵の自宅へ向かうことにした。
初めての土地で戸惑ったが、人に聞いたりして、昼までに自宅に行くことができた。
是川銀蔵の自宅は住宅街にある一軒家だった。
インターホンを鳴らすと、奥さんらしき人が出てきて、外出中だといわれた。

帰宅する時間を聞いたが、わからないといわれた。
コウゾウは住宅街の中にある公園で、夕方まで時間をつぶすことにした。
来る前から、いったい何をしている人なのかと思っていた。
奥さんらしき人は普通だったので、おかしな人ではないよなと考えていた。

日が暮れてきたので、コウゾウは自宅を訪ねた。
奥さんらしき人に、まだ帰っていないといわれた。
仕方ないので、玄関の見える位置で待つことにした。
やがて、雨が降り出したが、雨具を持っていないコウゾウは雨に打たれながら待ち続けた。

コウゾウの家系は体格がよく、コウゾウも体格がよいので、体力には自信があった。
朝までには帰ってくるだろう、コウゾウは夜通しでも待つつもりだった。
是川家の玄関の明かりが点くと、傘を手にした男が出てきたのが見えた。
出てきた男は傘をさすと、コウゾウの方へ歩いてきた。

「是川さんに何の用かな」、コウゾウの前で歩みを止めた男が尋ねた。
「是川銀蔵さんに会えば、人生が変えれると聞きました」、コウゾウは答えた。
「誰が、そのようなことをいったのか」、男が尋ねた。
「ジツオウジさんです」、コウゾウは答えた。

コウゾウが答えると、男は黙った。
「立ち話もあれなので、家の中で聞こうか」、沈黙の後に男がいった。
男の後に続いて玄関に入ると、奥さんらしき人にタオルを渡された。
濡れた身体を拭いたタオルを返すと、玄関の横にある応接間に通された。

応接間のソファには、先ほどの男が座っており、コウゾウにも座るようにいった。
父親くらいの年の男は、奥さんらしき人がお茶を持ってくるまで何もいわなかった。
「待たせてすまなかった、図体がでかいので、様子を見させてもらった。
ワシが是川銀蔵、ジツオウジとはどういう関係かな」、是川銀蔵がいった。

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