2022年1月25日火曜日

銘柄を明かさない理由R439 猿と天狗(後編)

第439話 猿と天狗(後編)

「丑田春樹の息子ってことは、丑田春樹の指示ってことか」、コウヘイがいう。
「その可能性はないと思います、丑田春樹が指示するなら、自らが指示したはずです。
別の筋というのは、私が地銀にいた頃から付き合いのある調査会社です。
調査会社によると、ある者が息子に調査を依頼したようです」、佐々木がいう。

「ある者って」、コウヘイがいう。
「丑田晃一は、学生時代に株の自動売買システム『天狗』の特許を出願しています。
この特許は共同で出願されており、出願者は丑田晃一と本間宗矩です。
この本間宗矩ですが、山形県酒田市出身の本間一族らしいです」、佐々木がいう。

「本間一族って、どんな一族なんや」、コウヘイがいう。
本間一族は、『出羽の天狗』と称された稀代の相場師、本間宗久を祖とする一族です。
本間宗久は、丑田春樹と晃一親子の祖である牛田権三郎と同時期に活躍した相場師です。
相場で活用されているローソク足や酒田罫線法の考案者としても知られています。

丑田晃一には、ヨドヤ様を調査する理由が見当たりません。
調査する必要があったとしても、父親の丑田春樹に相談したはずです」、佐々木がいう。
「ということは、本間宗矩とかいう奴が、丑田晃一にワテの調査を依頼したんか。
いったい、何のために調査させたんや、本間一族なんて知らんしな」、コウヘイがいう。

「調査会社も、本間宗矩の目的までは掴めていないようです」、佐々木がいう。
「本間宗矩っていう奴は、今、どこで何をしとるんや」、コウヘイがいう。
「大学卒業後に、山形の実家へ帰っているそうです。
定職には就いておらず、何をしているのかもわかっていません」、佐々木がいう。

ニート、もしくは引きこもりかもしれへんな」、コウヘイがいう。
「調査会社は、本間宗矩の目的を引き続き調べてくれるようです。
ですが、本間宗矩がヨドヤ様に対して、どのような行動を起こすかわかりません。
くれぐれも、単独行動にはお気をつけください」、佐々木がいう。

「何をされるかわからんのに、待っとくだけいうのもな。
しかし、その調査会社って、それだけのこと、よう調べたな」、コウヘイがいう。
「私が地銀にいた頃から、高難度の調査をお願いしていた東京の調査会社です。
小規模ですが、大手生保会社とも取引があり、調査には定評があります」、佐々木がいう。

「今、思うたんやけど」、コウヘイがいう。
「何でしょうか」、どのような策を思いついたのかと期待しながら、佐々木がいう。
「『猿と天狗』って、子どもの絵本にありそうやと思わへんか」、コウヘイがいう。
「・・・そ、そうですね」、期待するんじゃなかったと思いながら、佐々木がいった。

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