2022年1月21日金曜日

銘柄を明かさない理由R436 三猿と呼ばれた男(後編)

第436話 三猿と呼ばれた男(後編)

大阪市に本社がある上場会社、伊庭精機株式会社。
同社は、今年、創業50年を迎える中堅機械メーカーだった。
工場用の金型や治具の製造を手掛けており、大手メーカーとも取引があった。
創業者は現会長の伊庭林太郎で、現在は息子の伊庭義明が社長だった。

「三猿の丑田」こと丑田春樹が、会長の伊庭林太郎と面談した翌日。
伊庭精機の社長室には、丑田と社長の義明がいた。
「恥ずかしながら、相場のことは知識不足なので、お教えいただけますでしょうか。
仕掛けてくるとしたら、どのようなことが考えられますでしょうか」、義明がいう。

「大きく2つあると思います。
1つは、株価を吊り上げ、高くなったところで売り抜けて利益を得る。
1つは、株を買い占めることで、会社を乗っ取ることです」、丑田がいう。
「そ、そんな、会社を乗っ取られては困ります」義明がいう。

「おそらくですが、ヨドヤタエの目的は前者でしょう。
仮に、後者だとしても、対策はあるので、ご安心ください」、丑田がいう。
「どのような対策があるんでしょうか」、義明がいう。
丑田はアタッシュケースから書類を取り出すと、説明を始めた。

丑田が義明と面談した3日後の朝
伊庭精機の株に大量の売り注文が出され、年初来安値で取引が始まった。
「野も山も皆一面に弱気なら 阿呆になりて米を買うべし」
自宅で取引状況を監視していた丑田はつぶやくと、断続的に大量の買い注文を出した。

年初来安値で始まった株は、丑田の買いにより、出来高を伴い上昇した。
前場で大きく上昇した株は、市場関係者の関心を集め、その日の大商いとなった。
おそらく安く買い戻そうとしたんだろうが、安くは買い戻せなかったはずだ。
その日のうちに売り抜けて手仕舞いした丑田は、笑みを浮かべた。

その日から、伊庭精機の株は、相場に関係なく、出来高を伴い騰がり続けた。
株は年初来高値を更新しながら騰がり続け、短期間で株価は倍近くになった。
「万人が万人ながら強気なら たわけになりて米を売るべし」
自宅で取引状況を監視していた丑田はつぶやくと、義明に電話をかけた

翌日の取引時間が終わると、伊庭精機株式会社は株式分割を発表した。
現在、発行されている株を、1株から2株に分割するという内容だった。
だが、株主の保有年数が1年未満の株は、分割の対象外としていた。
次の日、伊庭精機の株は、大量の売り注文が出て、ストップ安となった。

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