2023年7月15日土曜日

銘柄を明かさない理由R019 敗者のゲーム(前編)

第019話 敗者のゲーム(前編)

ジョウシマはベッドから起き上がると、シャワーを浴び、遅めの朝食をとった。
会社は休みだが、何の予定もない。
新聞に、新しくできたショッピングセンターのチラシが入っていた。
電車で2駅ほどの距離なので、散歩がてら、行ってみることにした。

ショッピングセンターは、大勢の家族連れで賑わっていた。
家族連れを見て、自分にも同じようなときがあったなと懐かしく思った。
ジョウシマはバツイチだった。
学生時代から交際していた相手と結婚したが、長くは続かなかった。

当時、ジョウシマは家庭より仕事を優先していた。
子どもができるまでは、仕事を優先することを理解してくれていたようだった。
だが、子どもができてからは、口論することが増えた。
その後、別れることになり、子どもは妻が引き取った。

毎月の養育費は払っているが、子どもには会わせてもらっていない。
それから間もなく、会社でリストラが始まった。
目的は、バブル期に大量に採用した人員整理だった。
バブル期に入社したジョウシマも対象となった。

人事部の面談が頻繁に行われるようになり、社内の雰囲気は暗くなった。
ジョウシマは、辞めさせられないよう、面談のたびに抵抗していた。
そのときに飲み屋で知り合った、今の会社の社長にウチへ来ないかと誘われた。
心が折れかけていたので、今の会社へ転職した。

今の会社は、創業間もないので、社長も含め社員は3人しかいない。
年収が大きく下がったので、他の人からしたら敗け組と思われるかもしれない。
だが、今の会社は自分を必要としてくれている。
前の会社に残っていたら、いずれメンタルをやられていたかもしれない。

ショッピングセンターの中には、大きな本屋があった。
店頭の一角には、投資関係の本が何種類か平積みされていた。
ジョウシマは投資はギャンブルで、自分には関係がない世界だと思っていた。
他に読みたい本がなかったので、一冊を手に取り、ページをめくった。

その本はある個人投資家が書いており、読みやすそうだった。
ページ数も少ないので、ヒマつぶしにはいいかもしれないと思い、買った。
昼過ぎに帰宅したジョウシマは、買ってきた本を開くと読み始めた。
読み始めた本は、バリュー投資の入門書だった。

0 件のコメント:

コメントを投稿