2023年7月7日金曜日

銘柄を明かさない理由R015 選ばれし者(後編)

第015話 選ばれし者(後編)

半値になるたび、同じ数だけ買うようにすれば、1回目の金額を超えることはない。
1回目の金額と同額を用意しておけば、無限に買い増しできることになる。
倒産しない企業の株であれば、いつかは底打ち反転するので、それまで待てばよい。
絶対に敗けないともいえる手法だが、買い増し時の含み損はいくらなんだ。

クジョウは、買い増し時点の評価損益を追記した。
1回目、@1,000円、1,000株、1,000,000円、±0円
2回目、@500円、1,000株、500,000円、-500,000円(-34%)
3回目、@250円、1,000株、250,000円、-1,000,000円(-58%)

アルカディアでは、‐30%を下回る買い増しはあり得ない。
明確には指示していないが、彼女たちなら、‐30%になる前に買い増しするだろう。
ジョウシマも、この銘柄だけで、他の銘柄は早くに買い増ししているに違いない。
クジョウは、ジョウシマの過去の取引履歴を表示して確認した。

ジョウシマが現物株の取引口座を開設したのは2005年だった。
口座開設後に買った銘柄は10銘柄で、売った銘柄は7銘柄だった。
7銘柄の売りは利益確定の売りで、損失を確定する売りはなかった。
10銘柄の買いは、今回の銘柄を除いて、買い増しを一度もしていなかった。

現在、保有している銘柄は、今回の銘柄を除くと、2銘柄だった。
2銘柄も買値より下がっているが、半値までは下がってはいなかった。
ジョウシマは、全ての取引において、半値になるまで買い増ししないのか。
背後からの視線を感じたので、振り返ると、神崎が立っていた。

「休憩してきますね、無敗のジャックのデータ見てたんですか」、神崎がいう。
「無敗のジャックって誰のことだ」、クジョウがいう。
「無敗の個人投資家のジョウシマさんのことです」、神崎がいう。
「ジョウシマのことを知っているのか」、クジョウがいう。

「私以外のメンバーも、ジョウシマさんのトレードを参考にしていますよ。
特に、半値になったら買い増しする無限ナンピンは参考になりました。
短期トレードでも、値幅の半値で買い増ししたりと応用できますからね。
では、休憩してきます」、神崎はいうとドアを開けて出て行った。

会長は、業界では無敗のキングと呼ばれている。
クジョウは、社内では無敗のクイーンと呼ばれている。
ジョウシマは、メンバーから無敗のジャックと呼ばれている。
次に選ばれし者は誰になるのか、クジョウは口元にかすかな笑みを浮かべた。

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