2023年7月6日木曜日

銘柄を明かさない理由R014 選ばれし者(中編)

第014話 選ばれし者(中編)

神崎がトレードをしている間、クジョウは自席でデータ分析を行っていた。
クジョウが分析していたのは、損失を確定していない個人投資家のデータだった。
2008年9月から2009年3月までの間、損失を確定しなかった個人投資家は少なかった。
その中で買い向かっていた個人投資家の数は、さらに少なかった。

ふと、ある個人投資家の取引履歴が目に留まった。
その個人投資家は、Joshima(ジョウシマ)といった。
2009年3月10日、日経平均株価がバブル崩壊後の最安値を記録した日。
目に留まったのは、ジョウシマだけが、その日に買っていたからだった。

買っていた銘柄は小型株で、数量も多くはなかった。
たまたま買った日が、最安値の日だったのだろう。
クジョウは、ジョウシマの過去の取引履歴を表示すると、確認を始めた。
ジョウシマは、その銘柄を今の株価の数倍以上だった3年前に買っていた。

ジョウシマが買ってから株価は下がり続けており、買い増しを行っていた。
買い増しは、一定額下がれば、同じ数量を買っているようだった。
だが、買い増し後に、一定額を少なくしているようだった。
偶然か、それとも何かルールがあるのか、クジョウはメモ用紙を取り出した。

クジョウはメモ用紙に、ジョウシマの計3回の買い内容をメモした。
1回目、@1,000円、1,000株
2回目、@500円、1,000株
3回目、@250円、1,000株

買った半値になれば、同じ数だけ買っているのか。
株価が下がれば、多く買えるのに、なぜ同じ数しか買っていないんだ。
単に資金不足だったのか、それとも何かルールがあるのか。
初めて見る買い増し内容に、クジョウは興味を持った。

クジョウは購入に要した額を追記した。
1回目、@1,000円、1,000株、1,000,000円
2回目、@500円、1,000株、500,000円
3回目、@250円、1,000株、250,000円

同じ数しか買わなければ、購入に要する額は少なくなる。
半値になるたび、同じ数だけ買っていけば、限りなくゼロに近づく。
2回目以降の購入に要する額は、1回目の額を超えないことになる。
そういうことか、クジョウは、ジョウシマの買い増しルールに気づいた。

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