2023年7月2日日曜日

銘柄を明かさない理由R012 相場師が創った会社(後編)

第012話 相場師が創った会社(後編)

「ちょっと待ってくれ」、楢崎がいう。
「どうした」、速水がいう。
「奴が入社したのは2007年4月だよな、2006年の年末に就活って。
まだ、就職先を決めてなかったのか」、楢崎がいう。

「会長もそこに何かを感じたんだと思う。
翌年の1月、クジョウから連絡があり、会長と俺がクジョウの面接を行った。
その時点でも、内定をもらえた会社は1つもなかったらしい」、速水がいう。
「あれだけの学歴があって、なんで内定がもらえなかったんだ」、楢崎がいう。

「クジョウを面接してわかったが、よくいえば、しっかりと自分を持っている。
わるくいえば、協調性に欠ける、組織で働くには向いていない」、速水がいう。
「それなのに、なぜ採用したんだ」、楢崎がいう。
「組織人には向いていないが、トレーダー向きだと思ったからだよ」、速水がいう。

「なるほどな、そういう見方もあるんだな」、楢崎がいう。
「クジョウの給与に固定給はなく、全て歩合給にしている。
昨年の年収は、ウチの中でトップクラスだよ」、速水がいう。
「俺の年収なんて、奴の足元にも及ばないってことか」、楢崎が溜息交じりでいう。

「クジョウは最近、会社に徒歩で通える場所へ引っ越したらしい。
職住近接が理由らしいが、住んでいるところもトップクラスかもしれない」、速水がいう。
「1時間以上かけて通勤している俺からすると、考えられない生活だな。
しかし、会長の人を見る目は確かだな」、楢崎がいう。

「会長は、最後の相場師と呼ばれた是川銀蔵の愛弟子だった。
是川銀蔵の処世訓だった『誠と愛』を社名にするほど、リスペクトしている。
会長は、一代で財を成してから、業界発展のために、会社を創業した。
もしかすると、クジョウに自分と同じものを感じたのかもしれないな」、速水がいう。

「そういや、会長が個人投資家を育成しているって噂は本当か」、楢崎がいう。
「詳しくは聞いていないが、育成しているのは事実らしい」、速水がいう。
「そいつらも奴みたいな化け物なんだろうな」、楢崎がいう。
「化け物かどうかは知らないが、凡人ではないだろうな」、速水がいう。

「教えてくれてありがとよ、仕事に戻るわ」、楢崎がいい、ドアへ向かった。
「そうそう、会長が面白い奴を見つけたといっていた。
テンマという資産家の娘らしい」、速水がいう。
「また、俺より上ができそうだな、モチベーション下がるわ」、楢崎はいうと退室した。

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