2023年7月11日火曜日

銘柄を明かさない理由R017 敗者の末裔(中編)

第017話 敗者の末裔(中編)

2005年8月、東京都内のマンション。
また、あの夢か、ベッドで目覚めたジョウシマユウイチは思った。
ジョウシマは大人になってから、同じ夢を見ることが多くなっていた。
夢の始まりは、ジョウシマが海にいて、両脇を2人の男が泳いでいる場面だった。

泳げないジョウシマは、2人の男が腰につけた荒縄を左右の手でつかんでいた。
なぜか、2人の男が太郎と次郎という兄弟で、味方だということはわかっていた。
しばらくすると、ジョウシマと太郎と次郎の3人は、砂浜にたどりつく。
太郎と次郎は休む間もなく、周辺を調べると、ジョウシマの元に戻ってきた。

「潮に流されたが、そう遠くには流されていないようじゃ。
日が落ちるまでには、落ち合うことができましょうぞ」、太郎がいう。
「あやつらも、われわれが生きているとは、夢にも思わんでしょうな。
さて、死出の山へと参りましょうぞ」と、次郎が笑いながらいって終わる夢だった。

夢の中の言い回しや服装から、昔の日本だということはわかる。
だが、そのような小説を読んだり、ドラマや映画を観たりした記憶はなかった。
同じ夢を繰り返し見るということは、過去に体験したことなのかもしれない。
以前、自分の先祖が体験したことかもしれないと思い、先祖のことを調べたことがあった。

ジョウシマは、両親に長女のアキコの4人家族だった。
両親はアキコが高校生、ユウイチが小学生のときに亡くなった。
家族でドライブに出かけた帰り、サービスエリアに入ろうとしたときのことだった。
減速した父親が運転する車は、前方不注意の大型トラックに追突された。

アキコとユウイチが病院で目覚めたとき、すでに両親は息を引き取っていた。
身寄りのなかったアキコとユウイチは、施設に預けられた。
アキコは高校を卒業すると地元の会社に就職し、ユウイチを大学に進学させた。
ユウイチが大学を卒業すると、服飾デザイナーが夢だったアキコはパリへと旅立った。

デザイナーとしては成功しなかったアキコだが、今はパリで結婚し幸せに暮らしている。
姉貴に聞いたところで、自分たちの先祖については知らないはずだ。
ジョウシマは、両親の戸籍謄本を取り寄せた。
取り寄せた戸籍謄本によると、父親は徳島出身で、母親は京都出身だった。

ジョウシマは、外資系保険会社などの調査を行う会社の社員だった。
「両親の素性がわかれば、調査に要した費用は全て支払うことを約束する。
徹底的に両親の素性を調べて欲しい」
自費で両親の調査を依頼することにしたジョウシマは、委託先の調査会社に告げた。

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