2020年3月31日火曜日

銘柄を明かさない理由R316 Drive to hell(中編)

銘柄を明かさない理由R316 Drive to hell(中編)

アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ。
個人投資家の男は、男性社員を逃走用車両から引きずりおろすと人質の女性にいった。
「さあ、地獄へのドライブを始めようか」
個人投資家の男は運転席に乗り込むと、逃走用車両を発進させた。

証券会社から離れた車道には、1台の大型トレーラーが停車していた。
外から見ると、どこにでもある貨物用の大型トレーラーだった。
だが、内部は電子機器で埋め尽くされ、武装した数人の男たちがいた。
連邦捜査局(FBI)の特殊部隊"SWAT"の指揮官、コスナーに声が聞こえた。

「SR(犯人は逃走開始)」
スピーカーから、証券会社近くのビルの屋上にいるローランドの声が聞こえた。
チーム"ベータ"のリーダー、ローランドは続けていった。
「AS(シミュレーションどおり)、あとは任せた、チーム"アルファ"」

人質の女性警官を乗せた逃走用車両、白のセダンはシカゴの街中を疾走していた。
主要な幹線道路は、警官隊により一般車両は入れなくなっていた。
運転する男、マーフィーは暴落相場で多額の損失を出した個人投資家だった。
自暴自棄になったマーフィーに、失うものは何もなかった。

マーフィーは、従業員数人の小さな町工場を経営していた。
ある日、マーフィーは取引先の銀行に、設備投資のための追加融資を頼んだ。
取引先の銀行の担当者は、マーフィーにある提案をしてきた。
追加融資をするが、一部を運用に回してはどうかという提案だった。

マーフィーは生まれてから、今まで運用をしたことがなかった。
損をしないのか、と聞くマーフィーに、取引先の銀行の担当者は答えた。
「もし、あなたが損をしたら、当行は貸し付けた資金を回収できなくなります。
当行の取引先である証券会社の優秀な担当をご紹介するので、ご安心ください」

取引先の銀行から紹介された証券会社の担当は、カルヴィンという若い男だった。
真面目そうなカルヴィンを気に入ったマーフィーは、彼に勧められた銘柄を購入した。
購入した銘柄は、数ヶ月で大幅に株価が値上りした。
「売りましょう」、株価の値上りを喜んでいたマーフィーに、カルヴィンはいった。

なぜ、と問うマーフィーに、カルヴィンは「利益が出ているからですよ」といった。
カルヴィンの指示通りに売ったマーフィーは、思いがけない利益を得ることになった。
マーフィーが売ったあと、企業にバッドニュースが出て、株価は下がり続けた。
「売って正解だったでしょう」、カルヴィンは笑みを浮かべるといった。

0 件のコメント:

コメントを投稿