2020年3月10日火曜日

銘柄を明かさない理由R310 暴落のクーロンズ・アイ(中編)

第310話 暴落のクーロンズ・アイ(中編)

クジョウ レイコとメンバーが、モニターの株価を注視していた頃。
東京都中央区の日本橋近くの証券会社では、緊急の役員会が開かれていた。
その証券会社は、1925年(大正14年)に大阪府大阪市に設立された。
創業者の名は、野村財閥二代目の野村徳七で、日本一の株屋と呼ばれていた。

日本一の株屋は、高い情報収集能力と「ノルマ証券」といわれる営業力が武器だった。
昨年、大阪支店長のムラノ キョウスケが、日本一の株屋の取締役に抜擢された。
ムラノは、高級ブランドの銀縁メガネをかけた細身の男だった。
ムラノの表向きの肩書きは平取締役だが、事実上の最高責任者だった。

緊急の役員会が開かれたのは、昨夜のNYダウの暴落がきっかけだった。
会議室では、取締役兼大阪支店長のムラノが、役員から報告を受けていた。
「もうええ、言い訳は聞きとうもない」、明らかにイラついた様子のムラノがいう。
ムラノがいうと、役員は報告を止めて、席に戻った。

「ワテも含め、誰も今回の暴落を、事前に把握できんかった。
ええか、今回の暴落を仕掛けた奴を、何があっても探しだすんや。
ホンマ、日本一の株屋も舐められたもんやで、必ずやり返したるからな。
で、今の状況はどうなっとる」、ムラノがいう。

「私から報告させていただきます」、代表執行役社長グループCEO、大川がいう。
「昨夜のNYダウの暴落を受け、AIによる売買を全て手動売買に切り替えました。
現在、トレーダーたちは、東京証券取引所の状況を静観しています。
チーフトレーダーの内海によると、今のところ、損失は出ていないとのことです。

あと、米国駐在の調査班から、最新情報を入手しました。
昨夜のNYダウ暴落の仕掛け人が、判明したそうです。
仕掛けたのは、米国のニック・ライアンというカリスマトレーダーです。
ニックは大手証券会社に勤務しており、暴落の発端はニックの売り注文のようです。

ニックは、"レッドブル(赤い雄牛)ファンド"のファンドマネージャーです。
"レッドブルファンド"は、これまで大きな売りをしたことがないファンドでした。
ニックは取引開始と同時に、"レッドブルファンド"のほぼ全ての売り注文を出しました。
"レッドブルファンド"の売り注文を感知したAIの売りが、暴落の原因のようです」

「ほんで、そのニックとかいう奴は、どうしとるんや」、ムラノがいう。
「ニックは、すでにSEC(米国証券取引委員会)に拘束されたようです。
ただ、ひとつだけ、気になる情報があります。
SECがニックの勤務先を訪れた時、ニックは気を失っていたそうです」、大川がいう。

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