2019年10月21日月曜日

銘柄を明かさない理由R282 防衛の最前線(後編)

第282話 防衛の最前線(後編)

新宿歌舞伎町を囲む大通り。
裏通りを駆け抜けてきた21世紀少年は、立ち止まると振り返った。
振り返ったが、追ってくる男の姿はなかった。
助かった、21世紀少年は膝に手をつくと、肩で息をして、動悸が治まるのを待った。

全力疾走するなんて、何年ぶりだろう。
ようやく動悸が治まると、21世紀少年は近くにある自動販売機に向かった。
喉がかわいた、体が水分を欲しがっている。
21世紀少年はミネラルウォーターを買うと、自動販売機の横にへたり込んだ。

21世紀少年はキャップを開けると、ミネラルウォーターを一気飲みした。
疲れた、21世紀少年は空になったミネラルウォーターのボトルを地面に置いた。
空のボトルを置くと、両手で膝を抱え込み、膝の上に頭を乗せた。
通行人の何人かが、21世紀少年を見たが、無関心を装い通り過ぎていった。

しばらくして、ようやく動けるようになった21世紀少年は立ち上がった。
地面に置いていた空のボトルをゴミ箱に捨てると、最寄り駅に向かって歩き出した。
大通りは交通量も多く、行き交う人も多かった。
会社帰りらしいサラリーマンやOL、同年代らしい若い男女も多くいた。

同年代らしい若い男女のグループが、楽しそうに笑いながら居酒屋に入っていった。
自分とは違って、気楽な人生を送ってるんだろうな、21世紀少年は思った。
そのとき、21世紀少年の周囲が明るく照らされた。
右手にマイクを持った派手なドレス姿の若い女性が、21世紀少年の前に現れた。

「突然ですが、ぴーたんの東京らぶらぶ♪でぇ~す。
インタビューしても、いいですよね、えっ、いいんですか、あざーっすでぇ~す」
21世紀少年が周囲を見ると、カメラマンや照明器具を抱えたスタッフがいた。
誰もいいって言ってないだろ、21世紀少年は呆れた。

最近、テレビによく出ているバラエティアイドルが、21世紀少年に質問した。
「おにいさんの東京らぶらぶを教えてください」
マイクを差し出された21世紀少年は両手を上げると、胸の前で小さな×印を作った。
「残念ですぅ~」、バラエティアイドルとスタッフは、別の通行人に向かっていった。

21世紀少年に、インカムをつけたカジュアルな番組スタッフらしき男が近づいてきた。
「申し訳ないです、放送しませんが、念のため、名前と連絡先を教えていただけますか」
21世紀少年は男に名前と連絡先を伝えると、最寄り駅へ向かって歩き出した。
番組スタッフを装った組織の男は、さりげなくインカムを外すと人ごみの中へ消えた。

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