2019年10月8日火曜日

銘柄を明かさない理由R273 天使の降臨(後編)

第273話 天使の降臨(後編)

空港へ向かうレンタカーの車中に、2人の無敗の相場師がいた。
運転席では無敗の相場師、ウィッグの女がハンドルを握っていた。
助手席には天使の笑顔をもつ無敗のエースがいた。
運転しながら、ウィッグの女が無敗のエースに「家族は元気にしてた」と聞く。

数ヶ月前、ウィッグの女と無敗のエースはニューヨークで一緒に暮らしていた。
ある金曜日、ニューヨーク証券取引所がかってない規模で暴落した。
「ブラックフライデー(暗黒の金曜日)」と名づけられた暴落だった。
誰もが、世界恐慌の始まりだと思った。

無敗のキングから、ウィッグの女と無敗のエースに買い向かえと指示があった。
指示を受けた2人は、週明けの月曜日にニューヨーク証券取引所で買い向かった。
自分たちのほかにも、多くの者が買い向かったようだった。
結果、月曜に更なる暴落をすることはなく、世界恐慌になることはなかった。

世界恐慌が回避されたある日。
無敗のエースが、ウォール街で興味深い噂を聞きつけてきた。
ニューヨーク証券取引所を暴落させたのは、"ベイビー"というAI(人工知能)。
"ベイビー"は複数、存在し、そのうちの一体は上海にいるという噂だった。

噂の真偽を確かめるべく、無敗のエースは上海行きを決めた。
ウィッグの女も同行することにした。
上海へ行く前に、家族や世話になった人に会っておきたい。
無敗のエースがいうので、日本経由で上海へ向かうことにした。

「家族は元気にしていたよ」、無敗のエースがスマホを操作しながらいう。
「そういえば、妹がいるっていってたよね」、ウィッグの女が尋ねる。
「ああ、1人いるよ」、無敗のエースがスマホを操作しながらいう。
「妹さんは結婚する予定はないの」、ウィッグの女が尋ねる。

「結婚する予定はないだろうな」、無敗のエースがスマホを操作しながらいう。
「なぜ、結婚する予定はないの」、ウィッグの女が尋ねる。
「妹は高嶺の花なんだよ。やっと上海での宿泊場所の予約が終わった」
無敗のエースはいうと、スマホの電源を切り、ウエストポーチにいれた。

「どこを予約したの」、ウィッグの女が尋ねる。
「ニューヨークのときと同じで、最初の1ヶ月は高級ホテルを泊まり歩く。
その間に"ベイビー"が見つからなければ、アパートメントを借りるよ」
無敗のエースは、天使のような笑みを浮かべた。

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