2019年10月11日金曜日

【ショートショート】備えあっても憂いあり

その男は、仕事帰りにスーパーへ立ち寄った。
残り少なくなっている柔軟剤を買うことが目的だった。
スーパーに入った瞬間、買い物かごを手にした人の多さに男は驚いた。
ひょっとして近づいている大型台風に対する備えなのか、男は思った。

スーパーのレジの前には、長い行列ができていた。
男は列に並び、柔軟剤だけ買うと、スーパーを後にした。
帰宅してから、男は思った。
皆、普段から備えをしていないのだろうかと。

男は普段から備えをしており、常に生活必需品をストックしていた。
そのとき、「お前だけがよければいいのか」という天の声が聞こえた。
確かに、困っている人がいれば、助けなくてはならないと男は思った。
河川が氾濫したとき、助けに向かうためにはボートが必要だ。

男はネットで、ボートを検索し始めた。
船外機付のボートでないと、いざというときに間に合わないかもしれない。
男はさらにネットで、高性能ボートの検索を続けた。
気づくと夜が明けており、大型台風は何事もなく過ぎ去っていた。

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