2020年12月27日日曜日

銘柄を明かさない理由R375 侵掠すること火の如く(中編)

銘柄を明かさない理由R375 侵掠すること火の如く(中編)

現代のアメリカ合衆国ニューヨーク州。
タイムズスクエアでは、舞台"Nine dragon eyes"の宣伝イベントが行われていた。
特設ステージの背後の建物には、プロジェクションマッピングが投影されていた。
複数の場所に設置された大型スピーカーから、男性ナレーターの重厚な声が流れていた。

プロジェクションマッピングには、戦後ドイツのニュース映像が流れていた。
1945年5月8日、第二次世界大戦でのドイツの無条件降伏。
1948年6月24日、ソ連による「ベルリン封鎖」。
1948年6月26日、米国による「ベルリン大空輸」・・・。

「1961年8月13日午前0時、西ベルリンは包囲され、その後、巨大な壁が建設された。
ドイツ分断の象徴、"ベルリンの壁"は、多くの人々の運命を変えることになった」
男性ナレーターの重厚な声による舞台説明が終わった。
舞台説明が終わると、プロジェクションマッピングに、舞台俳優の紹介が流れ始めた。

紹介が終わると、上部に白地に黒の"Nine dragon eyes"のタイトルが表示された。
やがて、タイトルの下に、徐々に黒の模様らしきものが現れ始めた。
現れたのは、黒で描かれた9匹のドラゴンがこちらをにらみつけている絵だった。
各報道機関のテレビカメラは、宣伝イベントの一部始終を、撮影していた。

数時間後、上海ワールドフィナンシャルセンターのオフィスフロアの1室。
40代後半のオールバックでスーツ姿の男がいた。
スーツ姿の男は、中国の武器である青龍刀を思わせる劉宋明(りゅうそうめい)だった。
ランチを終えた劉は、PCでネットのニュースを確認していた。

ニュースの中に、「タイムズスクエアに9匹のドラゴン現る」というニュースがあった。
9匹のドラゴン・・・、興味を持った劉は、件名のニュースをクリックした。
ニュースは、ブロードウェイの新作舞台の宣伝イベントを伝えるものだった。
舞台のタイトルは、"Nine dragon eyes(ナインドラゴンアイズ)"。

"ベルリンの壁"に、運命を翻弄された人々を演じる舞台らしかった。
どこに9匹のドラゴンが現れたんだ、劉は動画再生ボタンをクリックした。
プロジェクションマッピングを使った、大掛かりなイベントの状況が流れ始めた。
最後に映し出された9匹のドラゴンの絵に、劉は驚愕した。

こ、この絵は、"SELL(売り)"のサブリミナル効果がある"九龍の眼"じゃないか。
俺が、各国の証券取引所に描かせた絵を、誰かが安易に使ったのか。
この絵が、配信されれば、明日のニューヨーク証券取引所は再び、暴落する。
だが、売りで参戦すれば、大儲けできる、劉は部下に売り注文するよう指示を始めた。

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