2020年12月18日金曜日

銘柄を明かさない理由R369 ウォール街の相場師(中編)

第369話 ウォール街の相場師(中編)

1930年、フランクリン・ルーズベルトと面会したジョセフは、資金援助を申し出た。
1934年、ジョセフは、証券取引を監督・監視するSECの初代委員長に任命された。
悪名高きジョセフが任命されたことに驚愕する人々に、ルーズベルトはいった。
「オオカミを捕らえるためにオオカミを使う。彼は取引のからくりを何でも知っている」

ジョセフは、ジェームズ・ランディスなどの有能なメンバーに恵まれた。
ジョセフの精力的な活動により、SECの活動は高い評価を得ることになった。
ジョセフの任命に驚愕した人々も、その結果の前には彼の有能さを認めざるを得なかった。
ジョセフは、1935年に委員長を辞するまで、多大なる功績を残した。

1935年8月、アメリカ証券取引委員会(SEC)の委員長室。
「ウォール街のオオカミ」こと、ジョセフの元に、1人の男が訪れた。
訪れた男は、SECの有能なメンバーの1人であるジェームズ・ランディスだった。
ジェームズは、ジョセフと同じ老舗証券会社出身で、明晰な頭脳の持ち主だった。

「かけたまえ」、入ってきたジェームズにジョセフがいう。
ジェームズが応接用のソファに座ると、ジョセフが執務机から立ち上がった。
「忙しいところ、呼びつけてすまなかった」
ジョセフは執務机を回り込み、ジェームズの向かいのソファに座った。

「ご用件は」、ジェームズがいう。
「SECを辞めることにした」、ジョセフがいう。
「えっ、SECができて1年しかたっていないのに、なぜ、辞められるのですか。
私たちに至らないことがあったのでしょうか」、驚いたジェームスがいう。

「君も含め、SECに至らないことはない」、ジョセフがいう。
「では、なぜ、辞めるのですか」、ジェームズがいう。
「SECにより、ウォール街が浄化されたからだよ。
次は、ワシントンを浄化しなくてはならないと考えている」、ジョセフがいう。

「ワシントン・・・政界に進出するのですか」、ジェームズがいう。
「これからの時代、金がある国が金のない国より優位に立てる。
他国との交渉においても、自国の利益を優先しなくてはならない。
私の力を、自国の利益のために使いたいと考えている」、ジョセフがいう。

しばらく沈黙した後、ジェームズがいった。
「わかりました、私は何をすればよろしいでしょうか」
「ウォール街のオオカミ」こと、ジョセフは不敵な笑みを浮かべるといった。
「相変わらず察しがいいな、君にはウォール街の"地獄の番犬"を作ってもらいたい」

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