2020年5月24日日曜日

銘柄を明かさない理由R329 無敗のクイーンと無敗のジャック(後編)

第329話 無敗のクイーンと無敗のジャック(後編)

休日の昼下がり。
"無敗のジャック"ことジョウシマ ユウイチは、河川敷に寝転がっていた。
雲がさまざまに形を変えながら流れていくのを、ジョウシマは見ていた。
そのとき、こちらへ駆けてくる軽快な足音が聞こえてきた。

ジョウシマが足音のする方向を見ると、1人の女性が駆けてくるところだった。
女性は髪を後ろで束ね、トレーニングウェアを着ていた。
トレーニングウェアを着た容姿端麗な女性は、ジョウシマの知り合いだった。
誰かと思えば、"無敗のクイーン"ことクジョウ レイコか、ジョウシマは思った。

「今日も昼寝か」、シャドーボクシングをしながら、クジョウがいう。
「そうだよ」、ジョウシマは寝転がったまま答えた。
「聞きたいことがある」、シャドーボクシングをやめたクジョウがいう。
「何だ」、ジョウシマが寝転がったままいう。

「今回の暴落相場、貴様はどうするつもりだ」、クジョウが横に座りながらいう。
「さて、どうしたものかな」、ジョウシマが空を見ながらいう。
「ところで、何を見ている」、クジョウがジョウシマに聞いた。
「雲を見ている」、ジョウシマがいう。

「雲を見ながら、何を考えている」、クジョウが聞く。
「どうすれば、雲の流れを止めることができるのか考えている」、ジョウシマがいう。
「そんなことを考えているとはな、ホントにヒマだな」、クジョウがいう。
「君は、雲の流れを止めることができるのか」、ジョウシマがムッとしていう。

「当たり前だ、雲の流れなんぞ、いつでも止めることができる。
雲と同じ速度で移動すれば、雲は止まって見える。
等速運動すれば、物理法則は互いに不変という相対性原理だよ。
ここへ来るまで、雲より速く移動したので、雲を追い抜いたがな」、クジョウがいう。

クジョウの言葉を聞いたジョウシマの頭に、あることが閃いた。
そうか、相場は自分と等速運動している、すなわち、時間軸は同一だ。
時間軸が同一なので、自分から見て相場は止まっているようなものだ。
いずれ、相場は自らが下がり、大底を迎える、自分はそのときを待つだけでいいのか。

「さてと、そろそろ行くか」、クジョウが立ち上がった。
「ところで、この近くに住んでいるのか」、ジョウシマが聞く。
クジョウがいった住んでいる街は、はるか遠くの街だった。
そんな遠くから走って来たのか、驚くジョウシマを残し、クジョウは走り去った。

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