2020年1月14日火曜日

銘柄を明かさない理由R300 無敗の個人投資家たち~ムラノ キョウスケの場合~(後編)

第300話 無敗の個人投資家たち~ムラノ キョウスケの場合~(後編)

東京都中央区の日本橋のすぐ近くにある、日本一の株屋の本社。
本社の貴賓室には、2人の男がいた。
1人は、取締役兼大阪支店長のムラノ キョウスケ。
もう1人は、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウだった。

誰も知らないはずのことを語るジツオウジの言葉を、ムラノは聞くしかなかった。
「貴様は父親から認知はしてもらえたが、父親のことを知ることなく育った。
だが、母親が病で亡くなるとき、学生だった貴様は初めて父親のことを聞かされた」
ジツオウジは、魔王のような笑みを浮かべるといった。

「な、なんで、そのことを知っているんや」、ムラノがいう。
「貴様は父親に、日本一の株屋に入社させろと頼み、入社することに成功した。
自分の境遇からしたら、入社させるくらいは当たり前だと、ほざいたらしいな」
魔王のような笑みを浮かべたまま、ジツオウジがいう。

「当たり前やろ、自分の息子にはそれくらいするのが父親やろ」、ムラノがいう。
「入社した貴様は、野村財閥の直系を武器にした。
貴様は役員たちに武器を用いて、事実上の最高責任者にまで昇りつめた」
魔王のような笑みを浮かべたまま、ジツオウジが続ける。

「それがどないしたんや、野村財閥の直系を武器にして、何がわるいんや。
ワテが最高責任者になってから、会社の業績は右肩上がりや。
武器だけやのおて、ワテには経営者としての実力があったっちゅうことやろが」
短気なムラノは激高して、早口でまくしたてた。

ジツオウジは、ゆっくりとソファから立ち上がった。
巨躯のジツオウジは、ムラノを見下ろすと、いった。
「貴様が日本一の株屋の最高責任者になれたのは、貴様の武器でも実力でもない。
貴様が入社したあと、社内の役員や同業他社に、貴様の父親から手紙が届いた。

手紙には、貴様が入社した経緯と、貴様への支援要請が綴られていた。
最後には、貴様が調子に乗ることがあったら、いつでも戒めてくれともあった。
所詮、貴様は父親という井の中の蛙にすぎんのだ、身の程をわきまえろ、若造が」
呆然とするムラノの横を通り、ジツオウジは貴賓室を出た。

「この度は憎まれ役を買っていただき、ありがとうございました」
貴賓室を出ると、廊下で待っていた代表執行役社長グループCEOの大川がいった。
「なかなか見所がある若造だが、たまには戒めておかんとな」
"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウはいうと、その場を後にした。

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