2016年11月9日水曜日

銘柄を明かさない理由R153 2人の天才(前編)

第153話 2人の天才(前編)

その男は無職だった。
再婚した女性が稼いだ金を、パチンコに使っていた。
ある日、男はタンスの引き出しに1万円札がぎっしり入った封筒を見つけた。
これだけの金をどこで手に入れたんだ、男は思った。

パート先から帰宅した女性に男は聞いた。
「この金はどこから手に入れたんだ。
他にも隠している金があるんだろ、さっさと出せよ」
女性は自分がパートで稼いだ金だといい、他にはないといった。

男は執拗に女性に問い詰めた。
「お前の稼ぎで、これだけの金がある訳ないだろ。
誰から貰ったんだ、実家から貰ったのか」
怒り心頭に達した男は、妻である女性に手を出した。

「ほら、いえよ」、執拗に手を出す男に女性の心は折れた。
「前の夫との間にできた息子がくれたの」
「あの、ひ弱なガキがこれだけの金を持ってる訳ないだろ」
男は横たわった女性に蹴りを入れた。

「痛い、止めてよ、か、株で稼いだっていってたわ」、女性がいう。
「株だと、あのガキは株で稼いでるのか」、男がいう。
「お願い、あの子はそっとしておいて」、女性がいう。
「知るかよ、今は俺が父親だろ」、男は笑いながら出ていった。

中学生の男の子は下校途中だった。
母親の再婚相手の暴力を見かねた祖父母に中学生の男の子は引き取られた。
祖父が亡くなったあと、男の子は祖母と2人暮らしだった。
今日はおばあちゃん、どんな料理を作ってくれるのかな、男の子は帰り道を急いだ。

パチンコ屋の横の路地から1人の男が出てきて、男の子の前に立ちはだかった。
「久しぶりだな、ずいぶん景気がいいみたいじゃないか。
少しばかり金に困っているんだ、金をくれよ、儲かっているんだろ」
男はニヤニヤしながら、男の子にいった。

男の子は、男に暴力を振るわれていた頃の記憶を思い出しそうになった。
すぐに記憶を封印すると、男の子は冷静にどうすればよいか考えた。
こういうときはどうするんだっけ。
先ずは警察に通報だな、男の子は学生ズボンのポケットからスマホを取り出した。