2016年11月10日木曜日

銘柄を明かさない理由R154 2人の天才(後編)

第154話 2人の天才(後編)

都内のある証券会社に、情報システムの責任者の男がいた。
ある日、男は部下から奇妙な報告を受けた。
株を高く買って安く売ろうとしている中学生がいると。
調べてみると、その中学生は会長が育成している無敗の個人投資家らしかった。

「高く買って安く売ろうとすると、取引画面がフリーズします。
おそらくプログラムにバグがあります。考えられるバグとしては・・・」
中学生から送られてきたメールは、バグの内容を的確に指摘していた。
どんな中学生なんだろう、情報システムの責任者の男は興味をもった。

情報システムの責任者の男は、学生時代にハッカーだった。
男は大手企業のサーバーに不正アクセスしていた。
やがて警察の知るところとなり、執行猶予つきの判決を受けた。
俺と同じ道をたどらないよう忠告しておくか、男は中学生に会いにいくことにした。

平日に休みをとった男は、中学生が住む町へ出かけた。
最寄り駅で降りると、中学生の住所へ向かって歩き始めた。
駅前には商店街があり、買い物帰りの主婦や下校中の学生が多くいた。
男の目がある行為を捉えた。

学生服を着た男の子が、派手なシャツを着た男にパチンコ屋の横の路地に連れ込まれた。
何が起こっている、男は走って路地に向かった。
路地では派手なシャツを着た男が、男の子の胸倉をつかんで怒鳴っていた。
「どこに電話しようとしてんだよ、ふざけんな、とっとと金だせよ」

派手なシャツを着た男は、男の子を殴ろうと拳を振り上げた。
「やめろ」、情報システムの責任者の男が派手なシャツを着た男にいう。
「何だよ、親が子にしつけしているんだよ」、振り返った派手なシャツを着た男がいう。
「いくら親子でも暴力行為は犯罪だ」、情報システムの責任者の男がいう。

「だから、しつけだっていってんだろ」、派手なシャツを着た男がニヤニヤしながらいう。
「罪を犯すとどうなるか教えてやろうか、まずは警察の過酷な取り調べだ。
そして罪が確定すると、それまでの日常は消えうせる」、情報システムの責任者の男がいう。
「な、何をいってるんだ、あんた何者だ」、派手なシャツを着た男がいう。

「かって罪を犯した者だよ、その子を解放してやれ」、情報システムの責任者の男がいう。
「わかった、わかったよ」、派手なシャツを着た男は男の子から手を離し去っていった。
「ちょうどよかった、この男の子のこと知っているかな」
情報システムの責任者の男は、男の子に紙に書かれた名前を見せ、にこやかにたずねた。