2016年11月4日金曜日

銘柄を明かさない理由R149 バグ

第149話 バグ

都内の古びた木造家屋。
2階の自室で中学生の男の子は、あることに気づいた。
あれ、この取引画面、バグってる。
バグっているのは祖父の取引口座がある証券会社の取引画面だった。

それは普通の者なら気づかないバグだった。
ある操作をすると、画面が固まってしまう。
単純なプログラムミスだな。
男の子は考えられる要因と対策を、証券会社にメールした。

翌朝、都内にある証券会社。
情報システムの責任者である男は、部下から報告を受けた。
「昨夜、取引画面のプログラムにバグがあるとの指摘メールが届きました。
昨夜の内に改修は終わっており、損害等は確認されていません」、部下がいう。

「どのようなバグだ」、責任者の男が問う。
「ある操作をすると、画面がフリーズしていました」、部下が答える。
「どのような操作をすると、フリーズしていたんだ」、責任者の男が問う。
「同じ銘柄を高値で買い発注、安値で売り発注したときです」、部下が答える。

「株は安く買って、高く売るんだ、そんな取引は想定外だ。
初心者が誤発注したときに、たまたま気がついたんだろ」、責任者の男がいう。
「いえ、そのメールを送ってきたのは、中学生ですが無敗の個人投資家です。
しかも、その中学生はその操作バグの早期の改修を要望していました」、部下が答える。

責任者の男は、社内の噂を思い出した。
会長が無敗の個人投資家を養成しているという噂。
養成しているのは、中学生、フリーター、ホステス、主婦、舞台俳優など様々。
養成は順調に進んでおり、とてつもないパフォーマンスを叩き出しているという噂だった。

「その中学生の取引口座を教えてくれ」、責任者の男がいう。
「かしこまりました、届いたメールも転送します」、部下は答え、席に戻った。
ほどなくして、部下から取引口座情報と届いたメールが転送された。
メールには今回のバグの考えられる要因と対策が、的確に記されていた。

責任者の男は、取引口座情報を確認した。
取引口座情報の備考欄に、アルファベットのKの文字があった。
会長は無敗のキングと呼ばれている相場師、イニシャルはKだ。
この中学生が会長が養成している無敗の個人投資家なのか、責任者の男は思った。