2016年11月20日日曜日

銘柄を明かさない理由R160 義を見てせざるは勇無きなり

第160話 義を見てせざるは勇無きなり

無敗のクイーンに「つまらん男だな」といわれた日、調査会社に勤める男は夢を見た。
羽織袴姿に作務衣やスーツ姿の4人の男が出てきた夢だった。
4人の男は、本間宋久、福澤桃介、本多静六、是川銀蔵。
いずれも国内屈指の偉大なる相場師たちだった。

「女子(おなご)にあのような物言いをされるとは情けない」本間がいう。
「なぜ、己が世界で一番、偉いと思わないのだ」福澤がいう。
「義を見てせざるは勇無きなり、というではないか」本多がいう。
「仕手筋の連中も人の子よ、何ら恐れることはない」是川がいう。

「しかし私がどう動こうと、相場の流れは変わらない」調査会社の男がいう。
明るい広い部屋に、2人の男の笑い声が響き渡った。
「私が、といいましたな、この男」本間の笑いが止まらない。
「いかにも」是川も笑いが止まらない。

「あまり笑ってやるな、ご両人、先もいったが義を見てせざるは勇無きなりだ」
本多が毅然とした態度でいった。
「君の意思は我々の意思でもある、その影響力は君が思っている以上だよ」
福澤が笑みを浮かべていったところで、調査会社に勤める男は目が覚めた。

都内のある証券会社。
無敗のクイーンと呼ばれる女性は資産運用部署、通称アルカディアの責任者だった。
アルカディアは無敗の個人投資家の売買データを元に資産運用していた。
国内の無敗の個人投資家は、調査会社の男も含め94人いた。

何も考えていないし、仮に何かしても止めることはできないだと。
アルカディアを動かしているのは、貴様ら無敗の個人投資家だ。
貴様ら無敗の個人投資家は動くだけでいい。
貴様らが動けば、アルカディアが奴らを止めてみせる、無敗のクイーンは思った。

同じ頃、調査会社に勤める男は自宅でPCを起動していた。
義を見てせざるは勇無きなりか。
自分の買い注文は、相場という大海に小石を投じるようなものだ。
だが自分は無敗の個人投資家だ。

自分が買うからには、必ず騰がる。
いや、騰げてみせる。
男は余力資金全てを使い、仕手株に前日終値での買い注文を入れた。
PCを閉じた男は出勤するため、身支度を始めた。