2016年11月19日土曜日

銘柄を明かさない理由R157 魔王と堕天使

第157話 魔王と堕天使

大手外資系証券会社、赤い竜の会社が仕掛けた仕手戦。
仕手戦では、比較的、長い期間をかけて仕込みが行なわれる。
ある日、相場に関係なく上昇が始まる。
仕込みが完了した後、徐々に株価を釣り上げるのである。

嗤う男が推奨したことにより、その株の株価は上昇していた。
今やデイトレーダーだけでなく、多くの個人投資家がその株を売り買いしていた。
連日のように、その株の値動きは株式ニュースで取り上げられた。
割安を示すPBRは1倍をはるかに超え、採算性を示すPERは50を超えようとしていた。

都内の吹き抜けのアトリウムがあるオフィスビルの1室。
その部屋には大手外資系証券会社、赤い竜の会社の幹部たちがいた。
「サルどもが群がってきたようですな」
円卓の左側に座った男が無表情にいう。

「いかがなさいます、そろそろ最終ステージへ移行しますか」
円卓の右側に座った男が、中央奥に座った男に聞く。
「よかろう、最終ステージへ移行だ、サルどもに地獄を見せてやろう」
円卓の中央奥に座った男が残忍な笑みを浮べた。

都内の邸宅。
居間には3人の男がいた。
最後の相場師の弟子である巨躯の男とその男性秘書。
最後の相場師の後継者とされた天使の笑顔をもつ男だった。

「この相場をどう読む」、巨躯の男が問う。
天使の笑顔をもつ男は、少しの間、考えるといった。
「この相場、先に動いた方が負けます。
上昇過程の今は、まだ動くときではありません」

「なら、いつ動く」、巨躯の男が天使の笑顔をもつ男に問う。
「敵が売りを始めてから、しばらく様子を見ます。
ある程度、売りが優勢になり、敵が安心した頃に」
天使の笑顔をもつ男は言葉をためた。

「敵が安心した頃に、どうする」、巨躯の男が天使の笑顔をもつ男に問う。
「大量買いで、踏み上げてやるのです」、天使の笑顔をもつ男が笑顔でいう。
この2人は人なのか、2人の会話を聞いていた男性秘書は思った。
男性秘書には、2人が魔王と堕天使に見えた。