2016年11月29日火曜日

銘柄を明かさない理由R171 天使の旅立ち(前編)

第171話 天使の旅立ち(前編)

願掛けを終えた2人の相場師は、兜神社を後にした。
「いつまで、向こうにいるんだい」調査会社に勤める男が聞く。
「特に決めていません」天使の笑顔をもつ男が答える。
「米国で成功した日本人相場師はいない、楽しみにしているよ」調査会社に勤める男がいう。

2人の相場師は、調査会社に勤める男が行きつけにしている定食屋に着いた。
定食屋の店先には、本日、貸切の札が掛かっていた。
「貸切にしてくれたんですか」天使の笑顔をもつ男がいう。
「私は予約をしただけだよ」調査会社に勤める男がいう。

2人の相場師はのれんをくぐり、引き戸を引いて中に入った。
「いらっしゃいませ」店内にいた2人の女性の明るい声が、2人の相場師を迎えた。
1人は女性店主、もう1人は大学在学中から交際していた天使の笑顔をもつ男の彼女だった。
「今日の料理は、ほとんど彼女が作ったのよ」女性店主が笑いながらいう。

4人は、思い出話や今後の話で大いに盛り上がった。
調査会社に勤める男は、トイレに席を立った。
トイレから出てくると、女性店主が待っていた。
「さあ、邪魔者は退散しましょう」女性店主は調査会社に勤める男を裏口へ案内する。

調査会社に勤める男が見ると、天使の笑顔をもつ男の彼女は泣いているようだった。
「戸締りはどうするんだい」調査会社に勤める男が聞く。
「あの子に鍵を預けているから、大丈夫よ」女性店主がいう。
調査会社に勤める男と女性店主は、裏口から外へ出た。

「いいわねえ、若いって、羨ましいわ」女性店主がいう。
「羨ましがらせないよ」調査会社に勤める男は女性店主の手をとった。
調査会社に勤める男と女性店主は、駅の方角へ向かって歩き出した。
調査会社に勤める男は、女性演歌歌手がカバーしたフォークソングを口ずさんだ。

同じ頃、銀座にある高級クラブの化粧室。
ウィッグの女は、何度か天使の笑顔をもつ男に電話していた。
ところがコール音が鳴るだけで、天使の笑顔をもつ男は電話に出なかった。
成功報酬の海外旅行はどうなるの、ウィッグの女はその日、何回目かになる電話をかけた。

「お客様のおかけになった番号は、現在、使われておりません」
聞こえてきたのは、機械による音声だった。
私との約束をなかったことにはさせないわよ、必ず海外旅行に連れて行ってもらうわよ。
ウィッグの女はゾッとするような妖艶な笑みを浮かべると、ある番号に電話した。